私と羽田はまず、役員を交えて「日本一働きたい会社」とは何かを定義付けしました。結論はこれです。

 「理念の下に集い、あふれる挑戦の機会の中で成長し続ける集団」

 私たちの会社は、社員に「あふれる挑戦の機会」を提供することを約束する。一方、社員には自発的にその挑戦の機会をつかみ、成長することを求める。同じ理念の下に集まっていれば、そんな個人の挑戦と成長が、会社の成長につながるはずです。このようにして「社員がキャリアビジョンを実現し、生き生き働くこと」と「ネクストとしての経営理念を実現すること」の両立を目指したのです。

 では、このような理想の集団を目指して、具体的にどんな仕組みをつくればいいか。私と羽田は採用、教育・研修、評価制度などの項目について議論を重ねていきました。

 ところが、その一方で、社内に不穏な空気が流れ始めました。

 上場した06年前後のこと。冒頭で紹介した通りです。創業メンバーを筆頭に、ネクストの価値観をしっかり共有できている社員と、価値観の浸透が不十分な社員の間で、意見の食い違いが目立つようになったのです。些細なことと思う人もいるかもしれませんが、私にとっては看過できない問題でした。社員全員のベクトルがそろわなければ、どんなに良い人事制度を整えたところで、機能しません。「日本一働きたい会社」など、言葉ばかりの夢物語に終わってしまいます。

トップダウンから「草の根ボトムアップ」へ

 そこで07年、私たちは「日本一働きたい会社」を目指す取り組みの方向性を一気に転換しました。

 それまでは基本的に、私と羽田を中心に役員を交えながら進めていたのを、全社員を巻き込んだ草の根型の運動に拡大したのです。

 社内横断型の「日本一働きたい会社プロジェクト」の発足を、全社に向けて宣言。プロジェクトチームのメンバーを、全社員から公募しました。

 組織を改革したいとき、このようなプロジェクトチーム方式を選ぶことには、メリットもあれば、デメリットもあります。

 新しい制度を設計し、導入するまでのスピードだけを考えるならば、プロジェクトチーム方式を選ぶのは得策ではないでしょう。従来通り、私と羽田や役員だけで決めて、トップダウンで実行した方が格段に早かったはずです。

 けれど、トップが決めたことを現場に下ろすだけでは、社員にとってはどこか「他人事」で終わってしまいます。新しい制度を通じて、私たちが求めている変化、目指している理想がうまく伝わらない。その結果、社員にとって納得度が低くなりやすい欠点があります。

 私は、「日本一働きたい会社プロジェクト」を、トップダウン方式から、社員全員から公募するプロジェクトチーム方式に転換することで、社員にある重要なメッセージを伝えたかったのです。

 それは「『日本一働きたい会社』は社長がつくるものではない。役員がつくるものでも、人事部がつくるものでもない。社員一人ひとりがつくるものだ」というメッセージです。

 さらに、人事制度の改革を草の根的な全社運動として進めることで、あらためてネクスト独自の価値観を社内に浸透させることもできると考えていました。

 ネクストでは当時から「日本一働きたい会社プロジェクト」だけでなく、さまざまな社内横断型のプロジェクトチームやワーキンググループが絶えず動いています。このような活動は、社員300人で直面するはずの「既決感蔓延症」の防止策として、有効だったと感じます。

 組織において大事な物事を決める時には、多くのメンバーがそのプロセスに加わることが重要です。時間がかかって面倒に感じるかもしれません。けれど、そうすることでメンバーの納得感が増し、浸透度も高まります。その結果、決定の後の実行のスピードと精度が上がります。遠回りに見えて、実は近道になる可能性が高いのです。