私の創業の思いは、これです。

 一世一代の大事な買い物であるマイホームを選ぶお客様に、市場に流通する商品すべてをワンストップで網羅的に見ることができる手段を提供したい。不動産業界にある「情報の非対称性」という問題を解消し、お客様の笑顔を生み出したい(詳しくは第1回をご覧ください)。

 そんな原点を忘れることなく、軸をぶらさぬように経営することを心掛けてきました。

宅配ピザ片手に語り合った理想

 社是は「利他主義」。経営理念は「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」です。

 いずれも、上場準備を始めた04年ごろ、全社員で話し合って定めたものです。私と役員、マネージャーが話し合って土台を作成した後、数十人いた社員全員を集めて合宿を実施。さらに数カ月間、ミーティングを何度も繰り返し、表現の一言一句に至るまで、全員が納得できるように議論を重ねました。

 「働くことの意義とは何か」「会社とは何か」「お金の本質とは何か」――。そんな根源的な議論が、社内のあちこちで連日、交わされていました。当時、終業後に定期的に社内で開いていた「ピザパ(ピザパーティーの略)」でも、缶ビール片手に宅配ピザを頬張りながら、気付くと熱く語り合っていたものです。ちなみにピザパとは、京セラ創業者の稲盛和夫さんが推奨する社内懇親の「コンパ」を、ネクスト流に取り入れていたものです。

2004年3月、業容拡大に伴い、オフィスを拡張移転したころ

 この時期からネクストで働いてきた社員には、こうした私の考えやネクストの価値観が骨の髄まで染みこんでいます。

 ところが、上場に向けて業容を拡大し、急激に社員を増やしていくなかで、価値観の共有が後手に回ってしまいました。私の力不足です。

 06年の春に100人強だった社員数は07年には200人強に、08年には400人の規模をうかがうまでに増えていました。中途入社の社員が1カ月に10人以上入ってきたこともあります。その過程で、かつては最終面談には必ず社長の私が立ち合っていたのを、部下に権限を委譲し、各部門長に任せるようになりました。

 中途入社の社員には、入社時の研修の中で約2時間かけて「ビジョン・シェアリング」を行い、社是や経営理念、行動指針などを説明しました。しかし、私たちの価値観や目指す世界を理解し、共感してもらうには、それだけでは限界がありました。

 特に中途入社の社員の場合、以前に勤めていた会社や業界の様々な文化を引きずっています。知らず知らずのうちに、目先の利益や成果を優先する発想に流れがちになるのも、無理からぬところがあります。

 そして、そんな彼らと、ネクストの価値観が染み渡った社員との間で足並みの乱れが生じている。一枚岩だったはずの組織に“きしみ”の予兆がありはしないか――。急成長を遂げ、脚光を浴びる会社の中にあって、私はこんな危機感を抱いていました。