「会議を実施しても結論が出ないことが多い」「会議が形式的なものになっており、意思決定は別の場所でされている」「リーダーがメンバーをコミットメントさせることが難しい」――。
身に付けるべきリーダーシップスキルをパーツごとに分解し、パーツスキルを反復演習する能力開発プログラムを実施していますと、参加者からこのような意見が最も多く寄せられます。日常のマネジメントや会議の場面で合意形成する課題です。
20年来、プログラムを実施してきましたが、ここ数年、特に合意形成スキルを高めたいというニーズが高まっていることを実感しています。それだけ、わが国の企業や団体で実施されている会議で、合意形成ができなくなっているのです。演習参加者の声を聞くと、合意形成できない会議の状況として、次の場面が挙がってきます。
・会議の冒頭や途中から議論が紛糾してしまい、時間切れになってしまう
・会議は反対意見が出ないまま終わるが、見せかけの合意にすぎず、メンバーは異論を抱えたままの状況が変わらない
このような時間切れや見せかけの合意の状況を解決し、一定時間内の会議で合意形成できるようにするには、どうすればよいでしょうか。こう問いかけると、参加者が活発に発言できるようにする、議論が拡散しないようにする、様々なアイデアが出るようにする、会議の目的を明確にする、事前準備のレベルを合わせる、最終決定者を明確にする・・・など、様々な工夫例が挙がります。
演習を繰り返す中で、試行錯誤を重ねてきましたが、これらの工夫例を確実に実現できるようにするには、すべてのビジネスパーソンが知っているとても簡単なスキルを、適切な順番で駆使するだけでよいことが分かってきました。そのとても簡単なスキルとは、「質問のスキル」なのです。
合意形成のカギを握る「洗い上げ質問」
すなわち、会議で、提案者や進行役がほかのメンバーへ提案内容を無理やり通そうとしたり、説き伏せようとしたりするから、紛糾したり、見せかけの合意になったりするのです。説得しようとせずに、進行役が質問だけをしていく方法です。
提案者が提案した後、進行役が繰り出していく質問は、次の4つです。「洗い上げ質問」「掘り下げ質問」「示唆質問」「まとめの質問」です。
「洗い上げ質問」とは、「ただ今の提案に関して、疑問や懸念を遠慮なく出してください」「ほかに気になる点はありませんか」「さらに問題になる点はないでしょうか」と、質問や異論を洗い上げる質問です。「洗い上げ質問」には、答え方が自由で、答える側にストレスがかからない拡大質問のスキルを用います。
このように申し上げると、「いきなり疑問や懸念を洗い出すなんて、寝た子を起こすことになり、紛糾する」「そのように異論を自由に出させて収拾がつかなくなったら、どうするつもりか」というようなご意見をいただくことがあります。そのような時には、「百聞は一見に如かず」というように、私が何度説明するよりも、実際に試していただくことこそ説得力がありますし、「『習うより慣れろ』と言いますから、まずは、演習してみましょう」とガイドしていきます。
そして、「案ずるより産むが易しですから、まずは日常のビジネスの場面で実施してみてください」と返します。実際に試してみると、驚くほど効果があることが分かります。そして、これまで意見を押し付けよう、説き伏せようとしてきた人ほど、効果が高まります。それは、そうした人が、日頃とは真逆のように、疑問や懸念を洗い上げようとしている姿勢こそが、合意を阻むバリアーを解消し始めているからです。その意味で、「洗い上げ質問」を実施すること自体が、合意形成のカギを握っていると言えます。
洗い上げ質問は、60分の会議でしたら、冒頭の15分くらいを使って繰り出していきます。大事なことは、疑問や懸念が出されてきても、「その都度、応酬しない」ということです。応酬してしまったら、まず、合意形成の難易度が高まります。普段、様々な企業や団体で見慣れている、収拾のつかない状況になりがちです。
「掘り下げ質問」で絞り込み、「示唆質問」で結論に誘導
「洗い上げ質問」により、論点を洗い上げたら、次は、「掘り下げ質問」により論点を掘り下げていきます。「5点の懸念点が出されましたが、最も深刻な点はどれですか」「○○さんは、AとBの問題を指摘されましたが、どちらが緊急度の高い問題でしょうか」というように、最も重大な論点を掘り下げていくのです。「掘り下げ質問」には答え方が限定されている、答える側にはストレスがかかる限定質問のスキルを用います。
「掘り下げ質問」のフェーズでは、「洗い上げ質問」から「掘り下げ質問」へ移行するタイミングがとても重要です。洗い上げに時間をかけ過ぎてしまうと、時間切れになるリスクが増大します。掘り下げへの移行が早すぎて、洗い上げが不十分だと、見せかけの合意になりがちです。
「掘り下げ質問」により絞り込んだ最も重大な論点について問うのが、「示唆質問」です。「示唆質問」とは、例えば掘り下げた論点が、「リソースが足りないから実施が難しい」ということでしたら、「私が交渉して、関連部署の協力を仰いで、リソースが確保できるとすれば、賛成ですか」と、ある前提をおいて、方向性を示唆し、その方向性へ誘導していく質問です。
「時間を捻出できないので、提案に賛成できない」という点だったとしたら、「みなさんで相談して、実施時期を調整できるという前提であれば、少なくとも反対はなさいませんか」という質問も示唆質問です。
「示唆質問」のフェーズでよくいただく質問に、「そのような方法では、あらかじめ期待した方向へ誘導しづらいのではないか」「どのような論点に掘り下げられるか、確証が持てないので、その場しのぎの方法になるのではないか」という意味のものがあります。経験を重ねるうちに実感すると思いますが、むしろ、誘導しやすくなりますし、合意のレベルも圧倒的に高まります。
単純なスキルであればあるほど応用が利く
最後の「まとめの質問」は、結論を共有する際も、質問で行うということです。「○○の方針を実行することに決定しましたので、従ってください」ではなく、「○○の方針で、ほかに異論がなければ実行していきたいと思いますが、さらにご意見があれば遠慮なくおっしゃってください」という質問を繰り出すことです。
これに対し、「そもそも『示唆質問』や『まとめの質問』など生ぬるい。しっかりと方針を打ち出して、それに従えと徹底することこそがリーダーの役割ではないか」という意味のご意見をいただきます。方針を打ち出して徹底していく、説き伏せ方式で、高いレベルの合意度が実現できていればよいのですが、実態は、そうではないことは、既にお気付きのとおりです。説き伏せ方式よりも、質問による合意形成の方が、高い合意度を実現できている以上、質問による合意形成を実施してみる価値はあるのではないでしょうか。
一定時間内の会議で合意形成する方法について、会議の手順を解説したり、進行の方法を説明したりしても、「頭では分かっても実際に再現できない」「理屈は分かったけれども、行動に移せない」という声をよく聞きます。しかし、解説や説明は最小限にして、4つの質問を反復演習していくと、実際のビジネスの場面で進行役を担う会議で、合意形成できる確度が格段に高まります。会議で合意形成するためのスキルを、4つのスキルに分解して、反復演習することこそ、実践に役立つ合意形成力を高めるのです。
そして、この4つの質問は、会議での一定時間内の合意形成のみならず、上司と部下のパフォーマンスマネジメントの面談、営業担当と顧客との間の商談、顧客サービス担当と苦情を申し出た顧客の電話など、様々なビジネスシーンで応用できる方法です。それは、身に付けたパーツスキルが単純であればあるほど、応用が利くからです。
本記事でご紹介した「課題解決力と合意形成力を向上させる16のスキル」を体験しながら身に付けていただくセミナーを10月15日(土)に開催いたします。演習は、講師が20年来にわたり開発し、100社以上に対して展開してきたプログラムが基になっており、効果は実証済みです。ぜひ、この機会にご受講いただくことお勧めいたします。
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リーダーシップ・トレーニング」(10月15日 東京開催)
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