部下の「意欲」の源泉を見極めよう
モチベーションファクターに基づく、強い組織の構築とは
人にはそれぞれ、意欲の上げ下げに影響を受けやすい要素があります。私はそれを「モチベーションファクター」と称し、目標達成、自律裁量、地位権限、他社協調、安定保障、公私調和と名付けています。
目標達成することに意欲をかき立てられやすい人のモチベーションファクターは目標達成、公私のバランスが取れていることにやる気が左右されやすい人のそれは公私調和というように使います。モチベーションファクターがどれであるかは、よし悪しで測られるものではなく、人それぞれのタイプを表すものだと私は考えています。
20年来、現在では年間約1000人が参加する「分解スキル・反復演習(身に付けるべきスキルをパーツ分解して、パーツスキルを反復演習して着実に体得する能力開発プログラム)」を開き、自分や相手のモチベーションファクターを見極めたり、モチベーションファクター別のマネジメント手法やセールス話法を繰り出したりするための演習をしていますと、同じモチベーションファクターの人同士は、お互いにモチベーションを高めやすいということが分かってきました。
考えてみれば、それは当然のことで、自分のことは自分がよく分かっているわけですから、自分のモチベーションファクターに照らして、自分が言われたり、アクションされたりしてモチベーションが上がりやすいことを、他の人にも実施すればよいことになります。どのような言動を取ったらよいか、同じモチベーションファクターの人に対しては、見当がつきやすいというわけです。
と言うことは、一般に、同じモチベーションファクターの人が多い組織に属していた方が、コミュニケーションが取りやすいということになります。もちろん、他のモチベーションファクターの人に対するマネジメント手法やセールス話法も、「分解スキル・反復演習型能力開発プログラム」により体得することができるのですが、自分のモチベーションファクターについて、手法や話法を編み出すことの方が容易です。
そこで、組織ごとのモチベーションファクターの傾向に注目してみたいと思い、「分解スキル・反復演習型能力開発プログラム」の直近の参加者538人の、自身のモチベーションファクターを見極める演習結果をまとめてみました。すると、組織ごとのモチベーションファクターに、想像した以上に顕著な傾向があることが分かってきました。
目標達成志向が強い外資系IT
目標達成のモチベーションファクターが最も強いのは外資系IT企業社員でした。成長著しい外資系IT企業が、目標達成志向の強い社員を採用し続けてきた結果でもあり、また、強めのパフォーマンスマネジメントをしてきた結果、目標達成志向の高い社員のみが、残ってきたことが理由でしょう。
グローバルIT企業S社は、目標達成志向が最も高い社員の割合が30%にも上りました。目標達成志向が最も低い企業ではその割合は15%ですから、その倍のレベルだということです。S社は国をまたがる人事異動や、部門をまたがるプロモーションを積極的に行うことで、業績を上げ続けてきました。その成果が、目標達成志向の強さに表れています。
このプログラムは、私が特定の企業や団体に出向いて実施する場合と、企業や団体からみると、対外的な場所で複数の企業や団体から参加者を募って実施する場合とがあります。後者を「対外セミナー参加者」と称していますが、対外セミナー参加者の目標達成志向には目を見張ります。
目標達成志向は、進取の気質に富み、チャレンジ精神が豊かで、課題解決型のアプローチを好む方に強く出ます。「分解スキル・反復演習」という新しい能力開発プログラムを体得しよう、社内の課題解決のために持ち帰ろうというチャレンジ精神が豊富な方々が参加するからでしょう。とりわけ、日経ビジネス主催のリーダーシップ・セミナー参加者の目標達成志向は25%と、対外セミナー参加者の中でも群を抜いています。リーダーシップをさらに高めることを課題とした目標達成志向の高い方々だからだと思います。
目標達成志向が、逆に最も低いのは、銀行員でした。続いて製造企業社員、官民統合企業社員の順になります。演習参加者のコメントを踏まえると、現状の基盤を守る、ビジネスを堅調に推移させる、取引先とのネットワークを堅持する、官民統合による組織の安定化を図るという意味の現在のビジネス上の課題認識が示されました。その結果、目標達成志向は低く出ていますが、他者協調志向が高く出ています。
自律裁量志向の強いコンサルタント
自律裁量のモチベーションファクターは、コンサルタントが抜きん出て高い結果が出ています。サービス提供内容は、コンサルタント一人ひとりの資質・能力に依存しますし、プロジェクト運営自体にコンサルタントの裁量が大きいことが反映しているに違いありません。直行直帰、裁量労働、顧客のオフィスで自身の裁量で業務遂行することなどが影響しています。
次に自律裁量志向が高い教員は、地位権限志向が最も低い傾向にあります。地位権限ではなく、自律裁量や他者協調を重んじていることが伺えます。銀行員は、自律裁量が一段低い結果となっています。ほとんどの既存業務について、詳細な手順がマニュアル化されている実態を表しています。
地位権限志向がダントツに高いのは、外資系IT企業で、想像どおりの結果です。前出の外資系IT企業S社は、40代前半の生え抜き社長を抜擢するなど、年功に全く左右されない抜擢人事と職位に応じた処遇を徹底しています。S社の社員のうち、地位権限志向が最も高い社員は、実に31.7%にも上ります。
他者協調、公私調和が抜きん出る銀行員
外資系IT企業は、他方で他者協調のモチベーションファクターが最も低く出ています。コンサルタントがそれに続きます。逆に、他社協調が高いのは、銀行員、教員、官民統合企業社員で、安定保障のファクターでも上位にランクされています。銀行員は、公私調和のファクターでもトップで、抜きん出ています。
冒頭に記したように、どのモチベーションファクターが高いか低いかは、それだけで、よし悪しを示すものではありません。例えば、営業担当者は目標達成志向が強く、人事担当者は公私調和志向が強くあるべきだという一見もっともらしい見方があるかもしれませんが、顧客も社員も、様々なモチベーションファクターを持っているわけですから、営業も人事も、様々なモチベーションファクターを有していた方が、対応しやすいということが言えます。
加えて、環境変化が加速する中、別のモチベーションファクターがより必要となる状況に直面する可能性が高くなっていると言えます。それらの意味で、私は多様なモチベーションファクターを持つメンバーで組織づくりをすることが基本ではないかと考えますが、読者のみなさんの考えはいかがでしょうか。
ライフサイクルに応じた人材配置がカギ
とはいえ、企業の発展段階に応じて、その企業を牽引する中核となるメンバーに求められるモチベーションファクターは限られます。例えば、スタートアップフェーズには、牽引志向と調和志向の両方が求められます。その後の成長期には牽引志向がより強く必要とされ、その後到来する安定期には調和志向が、さらなる成長期には牽引志向の度合いが高まります。
このように、企業のライフサイクルに応じて、核として求められるモチベーションファクターは変化していきます。それぞれの発展段階にマッチしたモチベーションファクターのメンバーを、臨機応変に配置できるかどうかがカギと言えましょう。そのためには、在籍している社員のモチベーションファクターを見極めるとともに、モチベーションファクターの組み合わせによるチーム編成を検討していくことが有効です。
既にこの取り組みを開始している企業もあります。M&A(合併・買収)により再生を図るO社では、事業の飛躍的成長を一気に進めるフェーズでしたが、目標達成、自律裁量のモチベーションファクターを有する社員が著しく不足していることが分かり、新卒採用や、中途採用のプロセスで、候補者のモチベーションファクターの見極めを行い、これらの志向の強い社員を採用することに注力しています。
外資系企業T社では、営業部長と営業部員の断絶が喫緊の課題でした。モチベーションファクターを見極めてみると、目標達成、地位権限のモチベーションファクターが極めて高い営業部長の下、安定保障、公私調和志向の強い営業部員が配属されている実態が明らかになり、チームの再編成に着手しています。
演習参加者の取り組みを踏まえると、モチベーションファクターという言葉を使っていなくても、同様の考え方をもって組織構築したことのある企業や団体があることはよく分かります。しかし、そのほとんどは、場当たり的な対応や属人的な対応にとどまっていると言わざるを得ません。私は、モチベーションファクターに基づくマネジメントを浸透させることこそ、わが国の企業の発展、ビジネスの伸展を実現するカギであると確信しています。
本記事でご紹介した「課題解決力と合意形成力を向上させる16のスキル」を体験しながら身に付けていただくセミナーを10月15日(土)に開催いたします。演習は、講師が20年来にわたり開発し、100社以上に対して展開してきたプログラムが基になっており、効果は実証済みです。ぜひ、この機会にご受講いただくことお勧めいたします。
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リーダーシップ・トレーニング」(10月15日 東京開催)
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