年間100社を超える企業や団体から参加いただく演習を通じて、金融、IT、製造業界のトップセールスの方々の顧客に対する言動を分解して、どの言動が並のセールスの人々とは異なるのかを洗い出したことがあります。
その結果、トップセールスの方々ならではのコミュニケーションの仕方があることが分かりました。それも、各業界共通の仕方なのです。
それは、顧客のタイプ別にコミュニケーションの方法を変えているということです。「なんだ、そんなことか」とお感じになった方もいるかもしれません。しかし、実はこのことは頭では分かっていても、実際に行ってみると、意外と難しいことに気付いた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
一律の「話法」は使えない
よくあるセールスキャンペーンのパターンは、新商品が開発されると、その新商品の特徴をCMや広告、商品パンフレット、説明書などで紹介することです。CMや広告は時間やスペースが限られていますから、最も訴求したい対象をセグメントして、その対象の消費者の方々の琴線に触れるアピールの仕方が用いられます。パンフレットや説明書でも、最も伝えたい点を集約して説明します。
以前は、「この商品は最高だから、お客様が理解してくださるまで、何度でも訪問しろ!」というような、いわば押し売りや、「お客さまが理解してくださらないのは、セールスのやる気がないからだ!」というような根性論が、その後に行われる社内研修で散見されました。さすがに今はあまり見かけなくなりましたが…。
しかし、私の演習参加者のフィードバックからは、今日でもほとんどの企業が標準話法やモデル話法と称して、一律の話法を社内研修などでセールスパーソンに紹介していることがうかがえます。
トップセールスのタイプ見極めと話法構築センス
実は、その後のアクションが、トップセールスか並のセールスかの分かれ道になります。
一律の標準話法の研修を受けた並のセールスパーソンは、一生懸命に標準話法を覚え、どの顧客に対しても、その話法を忠実に繰り出していきます。顧客によって関心を持つ、持たないは、自分の話法のレベルの問題だと自省したり、顧客のニーズも千差万別なので仕方がないと諦観を持ったりしながら、努力を怠りません。その結果、ある程度の顧客にはセールスすることができるようになります。
これに対してトップセールスは、トップセールスならではの独特のセンスにより、顧客のタイプを見極めて、そのタイプ別に大胆に話法を変えていきます。
例えば、いつもチャレンジすることが好きで、アグレッシブな顧客のAさん。「進取の気質」に富むので、「世の中にない新商品」ということを強調してみよう。周囲の状況を慎重に見極めてそれと変わらない行動を取りがちなBさんは、「他者との協調」の意識が高いので、「早速、普及している」ということを訴求しよう。何事に対しても慎重なCさんは「安定・安全」を大事にするので、「リスクが限られていること」を説明しなければならない――。こんな具合です。
トップセールスの中でも実績を上げる方は、この顧客のタイプの見極めと、タイプ別の話法の精度が高く、顧客の琴線に触れる確度が高いのです。
分解して反復演習することで、初めてスキルが身に付く
「そんなことは分かっている」「だから、社内研修でトップセールスの方の話法研修を受けた」という声も聞こえてきそうです。しかし、研修企画担当者がトップセールスの方を研修講師として招いて、トップセールスの方にその話法の実例を紹介してもらったり、解説をしてもらったりしても、実際には浸透していないということが実に多いのです。
それは、トップセールスの方々のほとんどは、その人なりの独特のセンスにより、顧客のタイプの見極めと話法の繰り出しを直観的に行っているからです。天才プレーヤーが必ずしも名マネジャーにはならないという格言は、私は当たっていると思います。
研修講師として招くのであれば、さんざん失敗して、苦労して、試行錯誤して、ようやく顧客タイプの見極めと話法の開発をして、時間をかけながら少しずつ洗練させて確度を上げてきた、いわゆる叩き上げのセールスパーソンにすべきです。
そして、その手法を分解して、反復演習する形にすれば、一般のセールスパーソンが体得できる確度が格段に上がります。
私は、人材開発の分野でキャリアを形成してきましたが、短い期間ながら、金融並びにIT業界で営業を経験しています。私自身の営業の失敗や試行錯誤の経験や、トレーナーとして実施してきた能力開発プログラム参加者からのフィードバックを踏まえると、分解スキル・反復演習型能力開発プログラムこそが、スキルを体得するための一番の早道ではないかと思います。
そして、そのスキルを体得することは、セールス活動のみならず、社内外のチームの要となるリーダー的な役割を果たす人々にとっても、とても有益であるに違いありません。
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