2008年、当時東証2部上場であった春日電機の常勤監査役が代表取締役に対して、違法行為の差止めを裁判所に対して求め、差止めが認められた事案である。新しい経営者が会社の資産を社外に不正に流出させるという違法行為について、監査法人が金商法193条の3の権限を行使し、その結果、監査法人から通知を受けた監査役が、新しい経営者による違法行為を裁判手続きにより差し止めたのである。この裁判以降、時代は「ポスト・カスガの時代」となったと言うことができよう(拙著『この時代を生き抜くために』99、100ページ 幻冬舎、2011年)。現に、この条文はオリンパスの事件でも大きな存在感を有していたと言われている。

 この金商法193条の3には、監査役が自律的な是正措置をとることができるようにするため、監査役と会計監査人との連携体制を確立させ、不正会計を防止するという趣旨がある。この趣旨からすると、法令違反などの事実を発見したまではいえない場合であっても、法令違反の疑いがあれば、会計監査人はその疑いを監査役と共有すべきである。

社外取締役との連携

 コーポレートガバナンス・コードは、社外取締役との十分な連携の確保も求めている(補充原則3-2②(ⅲ))。監査役との連携と異なり、社外取締役との連携は目新しいものである。監査役全国会議における事前アンケート結果によると、社外取締役と会計監査人の連携について取り組みを行っている会社は11.1%にとどまっており、浸透しているとは言えない状況である。

 社外取締役と連携する方法としては、社外取締役の方から、取締役会などにおいて、会計監査人からの指摘事項の有無や内容を担当取締役などから聞いて、必要があれば当該担当取締役などを通じて追加の情報を求めるという方法がある。社外取締役は、特に有事の際には、会計監査人とも緊密な連携を取る必要があると言われている。

 また、会計監査人側から社外取締役に接触していくことも必要であろう。会計監査人は、社外取締役と監査や財務諸表のリスクについて積極的に議論すべきなのである。会計監査人としては、監査役に対して自ら発見した問題について取締役会で議論するように求めることも考えられる。

監査法人のガバナンス・コード策定の背景

 東芝の不適切会計事件については、会計士個人の力量や審査態勢、品質管理態勢だけでなく、監査法人のマネジメントにも問題があったという指摘がされている。金融庁では、このような東芝の事件における監査法人についての問題意識から、監査法人のガバナンスを確立するための検討を進めている。上場会社を対象とするコーポレートガバナンス・コードに続いて、監査法人を対象とするガバナンス・コードを策定しようというのである。

 2016年3月、自民党の金融調査会が監査法人のガバナンス・コードを策定する方針を提言した。会計不祥事の再発防止や日本企業への信頼回復に向けて、適正な監査を確保することを目的としたものである。

 まず、金融庁の「会計監査の在り方に関する懇談会」において監査法人のガバナンス・コードについて議論がなされ、大手上場会社などの監査の担い手となる監査法人において実効的なガバナンスを確立するためには、大規模な組織の運営において確保されるべき原則が確認されていることが必要であるという指摘がなされた。イギリスとオランダでは、このような考え方から、実際に監査法人のガバナンス・コードを導入している。金融庁は、イギリス、オランダの例を参考として、日本でも監査法人の組織的な運営のための原則を確立すべきであるという提言を行った。

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