まず、個別監査業務については、監査チームのメンバー構成が長期間にわたり東芝の監査を担当した者が中心であったことから、東芝のガバナンスへの過信が生じたとされ、東芝の説明や提出資料に対して、批判的な観点からの検証が不十分であったと言われている。また、チーム内での情報共有や連携も不十分であったという。さらに、審査については、審査担当社員が監査チームによる重要な判断を客観的に評価していなかったという問題がある。さらに、品質管理態勢についても、審査会検査などの指摘事項に対する改善策についての周知徹底や浸透が不十分であった。このような問題点を踏まえ、根本的には監査法人のマネジメントに問題があったという指摘がされているのだ。

新日本に対する影響と対応

 2015年12月、金融庁が新日本に対し、相当な注意を怠り、長期間にわたって批判的な観点から検証ができなかったとして、3カ月の新規業務の停止と、約21億円の課徴金納付処分を課した。監査法人が、金融庁から課徴金を課されたのは初めてのことである。金融庁による処分などを受けて、新日本との契約を打ち切る顧客離れの動きも見られた。

 そして、2016年7月には、個人株主が東芝に対し、新日本を訴えるよう提訴請求を行った。東芝は提訴を見送ったが、同年9月、個人株主は株主代表訴訟の提起に踏み切った。個人株主は、新日本が東芝の利益水増しを発見できたのに、日本公認会計士協会が定める指針に沿った対応をせず、会計不祥事を見逃したと主張し、約105億円の賠償を求めている。

 新日本は、金融庁による処分を受けて業務改善計画を策定し、その進捗状況を毎月報告している。このうちガバナンスについては、透明性を確保するため、社外の有識者による関与を強めている点が注目される。

 まず、理事長などの選任プロセスについては、理事長を選任する指名委員会に社外の有識者を参加させるだけでなく、理事長以外の副理事長、経営専務理事および常務理事の選任についても社外の有識者の同意を必要とする改革を行っている。

 また、社外の有識者で構成される社外ガバナンス委員会を設置し、少なくとも月1回をめどに開催しているほか、経営会議に社外ガバナンス委員会の委員が出席し、公益的な観点から経営執行を監視しているという。

 言うまでもなく、社外の有識者を入れるという形式だけでなく、実際に活用して外部による監視を強めているという実質こそが重要である。

 新日本は以上のような業務改善計画をウェブサイトで公表している一方、個人株主による提訴については、現時点でコメントを発表していない。訴訟の進展についての報道もされていないが、今後の動向が注目される。

「守りのガバナンス」の重要性

 東芝の事件のような不祥事を起こさないようにするためには、「守りのガバナンス」、すなわち、会社におけるリスクの回避や不祥事を防止するためのガバナンスが重要である。2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードは、企業の収益力を向上させるための「攻めのガバナンス」を重視しているが、「守りのガバナンス」に関する事項もいくつか定められている。

 まず、コーポレートガバナンス・コードは、上場会社に対して内部通報にかかわる適切な体制整備を行うことを求めている(原則2-5)。東芝の不適切会計事件では、内部通報制度が十分に活用されていなかったことも問題となった(2015年12月25日付けの「内部通報制度はカイゼン活動」を参照)。

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