
2015年は「コーポレートガバナンス改革元年」と呼ばれた年であった。2016年はこの改革を「形式」から「実質」へ深化させていく年である。
そのような中で、今、経営トップの選解任プロセスが注目を集めている。政府の2016年の成長戦略「日本再興戦略2016」においても、「最高経営責任者(CEO)の選解任プロセス」などについて上場企業の取組状況を把握、公表していくことなどを通じ、コーポレートガバナンスの実効性向上に向けた上場企業による取り組みを促していくとしている。
私は「コーポレートガバナンスとは社長の首を挿げ替えることである」と述べたことがある。20年前のことである。業績が低迷している場合など万が一必要な場合には経営者を交代させることができるような体制を作ることを指す。会社の経営判断が経営トップを中心になされる以上、経営トップは会社にとって極めて重要な存在であるためだ。組織はリーダー次第なのである。
会社法上、経営トップを含む取締役の選解任は取締役会が行うとされている。しかし、多くの会社においては経営トップの交代を現時点の経営トップ(以下「現CEO」という。)が決めているのが実情である。このような状況に対しては、業績が低迷している局面でも経営トップを含む役員交代が行われないといった批判や、選任方針や選任手続の透明性に欠けるといった批判がある。
もっとも、最近は変化も見え始めている。経営トップの人事に任意の指名・報酬委員会が関与するというこれまであまり例のない事態が起きたのだ。まず、2016年4月、セブン&アイ・ホールディングス(以下「セブン&アイ」という)では、当時の経営トップである鈴木敏文会長が主導した子会社社長を交代させる人事案に対し、指名・報酬委員会の委員である社外取締役が反対を示した。その後、取締役会においてその人事案が否決されたのである。また、2016年5月には、指名・報酬委員会がセコムの会長に退任を打診し、その後の取締役会において、セコムの会長と社長を解職する決議がなされた。
セブン&アイ、セコムのような事例は、コーポレートガバナンス・コード(以下「ガバナンス・コード」という)の導入が契機となったとの指摘がされている。ガバナンス・コードは、経営陣幹部の選解任、独立社外取締役の役割、指名委員会、後継者計画について規定している。このガバナンス・コードを受けて、独立社外取締役の役割を重視し、取締役会の独立性・客観性を高めるために任意の指名委員会を設置する企業が急激に増加しつつある。
以下では、経営トップの選解任・後継者計画がどうあるべきかについて解説する。
経営トップに対する監視が必要
多くの会社では、経営トップの選任は現CEOの専権事項となっている。確かに、現CEOは会社のことをよく理解しており、経営トップの候補者を評価できる立場にいることからすると、現CEOが次の経営トップを提案することは自然なことだ。
しかし、現CEOが選択した候補者について何の批判もなくそのまま受け入れられてしまうことは問題である。経営のトップの選解任は、取締役会が主導する必要があるのだ。立派な人間が経営トップとして適格であるとは限らない。どのような経営トップであっても、経営トップを監視する者は必須である。日立製作所の元取締役会長である川村隆氏も、「いくら良いCEOを選んでも、過去の経験からいくと、必ず人間は腐敗あるいは堕落する、若しくはその成長を止めるという欠点があるので、選任・解任というところを取締役会が主導しなくてはいけないということをかなり意識した」と述べている。
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