ガバナンス・ガイドラインの背景

 歴史的にガバナンス・ガイドラインの策定・公表は、主に米国で発展した制度であり、米国では一般的な実務となっている。周知のとおり米国にはコーポレートガバナンス・コードはなく、ガバナンス・ガイドラインに拠っているのである。しかし、英国においても、コーポレートガバナンスに関する基本方針等に関する文書を作成・公表している会社はあり、日本のガバナンス・コードを策定する際に参考とされたOECDコーポレートガバナンス原則でも、ガバナンスの構造と方針について公表することが求められている。

 米国、特にニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場会社は、上場規則により、ガバナンス・ガイドラインの公表が義務となっている。NYSEの規則で公表が義務となる前から、NYSEの上場会社はコーポレートガバナンスに関するポリシーを策定しその公表を行っていたが、2001年のエンロン事件を受け、2003年にNYSEの規則が改正された際にガバナンス・ガイドラインの公表が義務となった。公表が義務となったことにより、NYSEの上場会社は、上場規則に沿ってガバナンス・ガイドラインを策定しなければならず、また、定期的な更新もしなければならないこととなった。

 具体的には、NYSEの上場規則では、ガバナンス・ガイドラインに以下の事項を定めなければならないとされている。

①取締役の適格基準
②取締役の責任
③取締役の経営陣及び独立したアドバイザーへのアクセス
④取締役の報酬
⑤取締役のオリエンテーション及び継続的なトレーニング
⑥経営陣の後継者
⑦毎年の取締役会のパフォーマンス評価

 注意を要するのは、日本のガバナンス・コードにおいて開示事項とされているコーポレートガバナンスに関する「基本方針」が、海外のガバナンス・ガイドラインに相当するものとして導入された経緯である。ガバナンス・コードを策定する際、多くの海外投資家からガバナンス・ガイドラインの策定・公表を求める強い意見があったのである。

 日本でガバナンス・ガイドラインを策定する際に米国などにおける海外の実務を参考すべき理由は、こうした事情が背景にある。

ガバナンスに対する積極的な姿勢の提示

 まず、ガバナンス・ガイドラインを策定・公表することで、会社がガバナンスに対して積極的に取り組んでいることを株主や投資家、特に海外の株主や投資家に示すことができる。株主や投資家の信頼確保につながるから会社にとって大きなメリットがあることは言うまでもない。

 上述したとおり、ガバナンス・ガイドラインに何を記載するかは各社が自由に決めることができる。そのため、ガバナンス・コードに記載された事項に限らず、各社がガバナンスに関し重要と考える事項を記載し、ガバナンスに対する積極的な姿勢を示すこともできよう。例えば、取締役会議長をCEOと分離させることなどが考えられる(詳細は後述)。

ガバナンス・コードへの対応状況の一元化

 ガバナンス・コードの合計73個の原則のうち、11の原則が開示すべき事項とされている。この11の原則について自社の対応状況を先ずガバナンス・ガイドラインに記載し、その上でコーポレートガバナンスに関する報告書にガバナンス・ガイドラインのリンク先を記載することとすれば、各原則についてまとめて開示することができる。また、開示事項以外にもガバナンス・コードの各原則について対応状況をガバナンス・ガイドラインに記載することにより、ガバナンス・コードへの対応状況をガバナンス・ガイドラインという形で一元化することができる。

次ページ 株主や投資家との対話の促進