各会社においては、以上のようなインセンティブ報酬を適切に組み合わせて、経営陣のインセンティブを創出する報酬ミックスを検討することが求められる。インセンティブ報酬の具体例を以下の表にまとめた。

交付物 報酬プランの例 報酬プランの概要
金銭 金銭賞与 業績を勘案して支払う金銭報酬
ファントムストック あたかも株式を付与したものとみなして、その場合の配当と売却益相当額を現金で支払う金銭報酬
ストック・アプリシエーション・ライト あたかもストック・オプションを付与したものとみなして、その場合のストック・オプションの行使価額を超過する株価上昇相当額を現金で支払う金銭報酬
株式 役員持株会 会社が金銭を株式取得費用として役員持株会に拠出し、これにより役員持株会が株式を購入することを通じて各役員に株式を取得させる現物報酬
株式交付信託 信託制度を通じて役員に株式を取得させる現物報酬
パフォーマンス・シェア 予め一定期間を定め、その間に業績目標を達成した場合に役員に自社株式を付与する現物報酬
リストリクテッド・ストック 予め一定の目標を定めて役員に自社の譲渡制限付株式を付与しておき、目標の達成度合いに応じて譲渡制限を解除する。譲渡制限期間の終了前に目標未達のまま退任した場合、当該株式を喪失する現物報酬
新株予約権 株式報酬型ストック・オプション(税制非適格) 権利行使価格が低廉なストック・オプション(1円ストック・オプション等)を付与する現物報酬
税制適格ストック・オプション 権利行使価格を付与時の市場株価とするストック・オプションを付与する現物報酬

インセンティブ報酬としてのリストリクテッド・ストック

 上記の表のインセンティブ報酬のうち、リストリクテッド・ストックは、米国企業において頻繁に用いられている報酬に類似している。日本企業によるリストリクテッド・ストックの発行については、会社法上、無償で株式を発行することや、役員の労務を対価として株式を発行することが認められていないことなどとの関係で問題があったものの、コーポレートガバナンス改革に伴い、以下に述べるような矢継ぎ早の改革がなされ、日本企業へのリストリクテッド・ストックが事実上解禁されるようになった。

 まず、リストリクテッド・ストックなどの法律上の論点に関しては、2015年7月に経済産業省主催の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が公表した報告書、「コーポレート・ガバナンスの実践~会社価値向上に向けたインセンティブと改革~」により積極的な整理が行われた。

 次に税制についても、平成28年度税制改正において、経営陣に「攻めの経営」を促す役員給与等にかかわる税制整備として、役員へ付与した株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)につき事前確定届出給与の対象とし、損金算入を可能とすること等の制度整備が行われた。

インセンティブ報酬としての株式信託報酬制度

 上記の表のインセンティブ報酬のうち、最近では、信託制度を利用した株式信託報酬制度を導入する会社が増加している。

 2015年6月の株主総会においては、合計35社が新規に導入し、2016年6月24日時点では、累計で223社の会社が導入することとされており、今後も導入会社が増加することが予想される。

 例えばアステラス製薬は、2015年6月の株主総会において、株式報酬型ストック・オプションに代わって、以下の内容の役員報酬BIP(Board Incentive Plan)信託を利用した中長期業績連動報酬を導入した。

対象者 社外取締役を除く取締役
信託金の上限 各信託期間につき3億5千万円
信託対象期間 3年
株式の交付時期 信託対象期間終了後、初めて到来する6月ころ
交付株式数の決定方法 以下の算定式によって算出されるポイント1ポイントにつき1株を交付
【ポイントの算定式】
基準ポイント*×業績連動係数
 * 基準ポイント=[役位に応じた基準金額]÷[信託設定月の株価終値の平均値]
業績連動係数の決定方法 3年後の売上高、コア営業利益率、ROE等の各連結業績目標値に対する達成度に基づき、0~200%の範囲で決定
業績達成度の評価は、報酬委員会の審議を経た上で取締役会において決定される
(アステラス製薬株式会社「業績連動型株式報酬制度の継続に関するお知らせ」(2016年5月11日)を参考に作成)