常勤の監査等委員の設置
 監査等委員会設置会社では、常勤の監査等委員を置く義務はない。監査等委員会は、内部統制システムを利用した監査を行うことが想定されており、常勤の監査等委員の選定を義務付けなくても情報収集の点で問題はないと考えられているためである。

 しかし、常勤の監査等委員を設置しない場合は、以下が懸念されると言われている。
 まず、監査等委員会に執行の現場の情報が共有されにくく、情報不足になるおそれがある。

 また、監査等委員会に上がってくる情報を常勤者が整理して議題事項を絞る必要があるところ、常勤の監査等委員がいないと議題事項を絞ることが困難となり、監査等委員会が機能しない可能性がある。

 さらに、多くの業務執行の意思決定を取締役に委任する場合には、常勤の監査等委員がいなければ、実際上、個々の取締役の行動をモニタリングすることは難しいであろう。

 他方、常勤の監査等委員を置くことには、以下のようなメリットがある。
 まず、常勤の監査等委員は、会社・業界に特有の情報に精通しており、非常勤の監査等委員に対し、監査等に必要な情報を随時提供することができる。特に、社内から尊敬され、より多くの情報が集まってくるような人材を常勤の監査等委員とすれば、より一層メリットを享受することができるであろう。

 また、会社・業界に精通した常勤の監査等委員が、重要な会議に出席したり、実際に現地へ行って監査を行ったりするなどの監査活動を日常的に行うことができる。

 実際、2016年4月末時点で監査等委員会設置会社に移行済みの327社のうち、常勤の監査等委員を置く監査等委員会設置会社は275社も存在する。

 また、三菱重工業の常勤監査等委員も、「会社の規模や事業範囲を考えたとき、常勤者なしで監査を行っていくというのは現実的には無理ではないか」と述べており、多くの監査等委員会設置会社では常勤の監査等委員を置く傾向にあるといえよう。

 特に、監査等委員会は、内部統制システムを利用して監査を行うことが想定されており、内部監査部門との連携が重要となる。内部監査部門との連携を強化するためにも、常勤の監査等委員が内部監査部門から監査の報告を直接受け、他の監査等委員に情報提供できる体制を整えることが望ましい。

 例えば、カプコンは、監査等委員会設置会社へ移行すると同時に、2名の常勤者を含む監査等委員会が内部監査部門を直轄する制度に移行しており、実質を伴った移行例といえよう。

監査等委員会の活用によるガバナンスの向上
 社外取締役の選任を求めるガバナンス・コードに対応するためといった形ばかりの移行ではもはや株主からの支持を得ることはできないであろう。特に、重要な業務執行の決定の多くを取締役に委任する場合は、その取締役の監視・監督をする体制を整えなければ、かえってコーポレートガバナンスの低下を招くおそれがある。

 監査等委員会設置会社へ移行する会社が増加し続けているとはいえ、監査等委員会の活用により自社のガバナンスを向上させようという積極的な姿勢はまだ弱いのではないか。

 株主総会での意見陳述という重大な権限行使などにより、取締役の人事について監査等委員会を積極的に関与させ、モニタリングを強化することが重要である。

 監査等委員会設置会社の形態をとるのであれば、単なる移行という形式にとどまることなく、取締役の監視・監督に監査等委員会を活用し、自社のガバナンスの向上へつなげることこそ、望ましい監査等委員会設置会社のあり方なのである。

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