上記のように監査等委員は、他の取締役の選解任・報酬についての意見陳述権や妥当性監査といった、監査役と異なる役割を有している。この点をとらえて、後述するように、監査役を横滑りさせるのは問題ではないかとの指摘がある。また、上記のようにRMBキャピタルも指摘しているが、監査役会には常勤の監査役がおり、かつ、各監査役が単独で調査権を有するのと比べて、監査等委員会では常勤者の設置が義務ではなく、かつ、監査等委員には単独の調査権限もないから監査機能が低下するとの指摘への対応も必要となろう。

 今後は、監査役設置会社や指名委員会等設置会社ではなく、なぜ監査等委員会設置会社に移行するのか、または、なぜ移行しないのかについて株主に対して合理的に説明することが求められるであろう。

ガバナンス向上のための留意点

任意の指名・報酬委員会の設置
 RMBキャピタルが、オプトホールディングおよび昭文社の2社に対し、監査等委員会設置会社への移行に反対したのは、いずれも任意の指名・報酬委員会が設置されていないことを理由としている。

 取締役の「指名・報酬」という人事の決定について透明かつ客観的なものとすることは、監査等委員会設置会社においてもガバナンスを向上させるための課題といえる。

 このような課題に正面から応えるためには、任意の指名・報酬委員会を設置することを検討すべきであろう。ガバナンス・コードも、「独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべき」としている(補充原則4-10①)。

 東証の「コーポレート・ガバナンス情報サービス」によると、2016年7月13日時点で、監査等委員会設置会社に移行している会社637社のうち、任意の指名委員会または報酬委員会に相当する任意の委員会を置いているとする会社は、109社(17.1%)にすぎない(このうち指名委員会に相当する任意の委員会があるとする会社は93社、報酬委員会に相当する任意の委員会があるとする会社は104社)。任意の委員会を設置する会社の数はまだ多いとは言えないものの、任意の委員会の設置を検討する傾向は強まっている。

 例えば、三菱重工業は、社外取締役の意見を聴取するため、役員指名・報酬諮問会議を開催している。また、2016年5月に監査等委員会設置会社へ移行したニトリホールディングスも任意の指名・報酬委員会を設置した。

 しかし、取締役の人事・報酬は、任意の指名・報酬委員会の答申によって法的に拘束されるわけではない。任意の指名・報酬委員会の答申結果を取締役の人事・報酬に極力反映させるようにするため、取締役会が任意の指名・報酬委員会の答申結果を尊重すべき旨または尊重した上で慎重に検討すべき旨を内部規則に定めるといった工夫も考えられよう。

 このように、任意の指名・報酬委員会を設置することについて肯定的な動きがある一方で、任意の指名・報酬委員会の設置は監査等委員会の形骸化を招くとの指摘もある。そもそも、取締役の指名・報酬について意見陳述権のある監査等委員に期待されるのは、取締役の指名・報酬に積極的に関与することである。任意の指名・報酬委員会を設置する場合でも、監査等委員が指名・報酬委員会の委員になるなどして、取締役の指名・報酬について監査等委員会と情報共有することを検討すべきであろう。

形ばかりの横滑りの人事を避ける
 監査役設置会社から監査等委員会設置会社に移行する場合、既存の社外監査役を監査等委員である社外取締役として選任する、いわゆる横滑りの人事が問題となる。社外役員の人数や構成員が同じである以上、実質に何も変わりがないように見えるため、監査等委員会設置会社に移行する実益に乏しいのではないかという問題である。

 この点については、本連載第7回(「監査役会設置会社という『選択』」)でも触れているとおり、社外監査役と監査等委員である社外取締役とでは期待される役割が異なることを踏まえ、当該候補者の経歴・専門分野、会社からの独立性などを考慮し、既存の監査役が本当に監査等委員として適任かどうかについて厳格に検討する必要がある。