横滑りの人事
 社外取締役の人数を合わせるために監査役を監査等委員(社外取締役)に就任させる安易な移行は慎むべきである。

常勤監査役の不在による監査機能の低下
 常勤だった監査役が非常勤の監査等委員となった場合、監査等委員には監査役と異なり単独での調査権限がないことから、移行によって監査機能が低下するおそれがある。

監査等委員による議決権行使のメリットが乏しい
 移行後の社外取締役は全取締役の8名中3名となる(移行前には社外取締役は選任されていなかったが、移行前の社外監査役3名が監査等委員(社外取締役)となった)が、取締役会の過半数に満たないことから、従前の監査役に監査等委員としての議決権を付与することによる効果には疑問がある。

昭文社の監査等委員会設置会社移行への反対

 さらに、2016年6月にも、RMBキャピタルは、昭文社(RMBキャピタルが5%超の株式を有する)の監査等委員会設置会社への移行について、任意の指名・報酬委員会を設置しないことなどを理由に反対した(なお、株主総会では約1割の反対票が集まったものの、監査等委員会設置会社へ移行する旨の定款変更議案は可決されている)。

 RMBキャピタルは、昭文社の経営陣に対し、過半数が社外取締役からなる任意の指名・報酬委員会の設置などを求めて両者で協議を行ったが、話し合いはまとまらなかった。そこで、RMBキャピタルは、この任意の指名・報酬委員会の設置について昭文社に再考を促すため、監査等委員会設置会社へ移行する旨の定款変更議案に反対し、他の株主に同調を呼びかけたのである。

 RMBキャピタルによる反対表明以前は、監査等委員会設置会社への移行について反対する大きな動きは見られなかった。RMBキャピタルの反対表明は異例の出来事である。監査等委員会設置会社へ移行する流れに疑問を投げかけた事案といえよう。

議決権行使助言方針の厳格化

 海外機関投資家だけでなく、議決権行使助言会社にも変化が見られ始めている。

 現在、議決権行使助言会社のISSは、監査等委員会設置会社に移行する旨の定款変更議案に原則賛成する基準を採用しており、賛成の条件は明示されていない。

 しかし、先月、ISSジャパンの石田猛行代表が、「私たちがガバナンスの面で『悪い』と分類する会社に限って監査等委員会設置会社に移行している」と発言したと報道された。ISSは、社外取締役4人以上を選任することを求める方針を来年に導入し、この条件を満たせない場合は移行に反対を推奨することを検討している。これは、社外監査役を監査等委員に横滑りさせるのでは、社外役員の人数に変化がなく、外部によるガバナンスを強化することにならないといった問題を踏まえたものとみられる。

 ISSは現在、監査役設置会社について社外取締役2人以上の選任を求めているが、社外取締役4人というのは、その2倍にあたる数字である。社外取締役を4名以上選任した監査等委員会設置会社は、2016年4月末時点までに移行した324社のうち58社であり、わずか17.9%にすぎない。社外取締役4人以上の選任という条件は、会社によっては厳しい条件となるであろう。

形だけの移行は許されない時代に

 以上のように、機関投資家や議決権行使助言会社の監査等委員会設置会社に対する姿勢は変わり始めている。ISSの議決権行使助言方針の改訂が行われれば、形だけの横滑りのような安易な移行に対して反対する株主が増加する可能性が高くなるとみられる。

 監査等委員会と監査役会を比較してみると、以下の下線で示した相違がある。

監査等委員会 監査役会
他の取締役の選解任・報酬についての意見陳述権 あり なし
監査の範囲 妥当性監査・適法性監査 適法性監査
監査体制 内部統制システムの利用 各監査役(独任制)
常勤者の設置義務 なし あり
取締役等に対する
事業報告請求権、業務等調査権
監査等委員会が選定する
監査等委員の権限
各監査役の権限
取締役会に対する
違法行為の報告義務
各監査等委員の義務 各監査役の義務
取締役等の
違法行為差止請求権
各監査等委員の権限 各監査役の権限