今年も株主総会シーズンがやってきた。今年の集中日は6月29日(水)だ。
しかし、こんな話題も今年限りかもしれない。今年の集中率は32%である。ピークだった1995年の96%に比べれば64%、昨年の42%からは10%の減少である。もう株主総会を集中させる理由はなく、させない理由はたくさんある。時代は変わったのである。
今年はコーポレートガバナンス・コード(以下「ガバナンス・コード」という)適用2年目の年である。また、多くの上場会社にとって、2015年6月1日に策定のガバナンス・コードに対応したコーポレートガバナンスに関する報告書(以下「ガバナンス報告書」という)を提出してから初めての株主総会となる。
ガバナンス・コードは、上場会社に「株主との対話」を求めている(原則5-1等)。
株主総会とは「株主との対話」の要石(キーストーン)である。前後に対話が積み重なることが予定されていればこそ、キーストーンの存在意義がある。株主総会の場は、コーポレートガバナンスの向上や持続的成長に向けた有益な機会の中心として捉えるべきなのである。株主総会の場での株主とのやりとりのみが重要なのではない。株主総会があり、そこが自由闊達な議論の場であることが保証され、その場での自由な議決権の行使によって会社にとって重要な決定がなされる。その前後を通じて株主との対話を励行しない会社は、株主総会で株主から支持されない。株主総会をキーストーンと呼ぶゆえんである。
本連載第6回(「ガバナンス・コードで株主総会が変わる」)を公表したのは、ガバナンス・コードの適用が開始された2015年6月であった。そこでは株主総会に関連する各原則の基本的な内容の解説およびガバナンス・コードが株主総会へ及ぼしうる影響について述べた。今回は、株主総会の変化の歴史について述べた上で、2015年のガバナンス・コードの下での初の株主総会を検証するとともに、今年の株主総会において検討すべきポイントを解説する。
2004年ころまでの「閉ざされた」株主総会
過去の株主総会は大きく変わって現在に到る。転換点は2004年ころである。
かつての株主総会の特徴は、「総会屋の跋扈」、「堅固な株式持合い」、そして「物言わぬ機関投資家」のトライアングルであった。その時代にはいかに株主総会を「平穏に」終えるかがテーマであった。
会社の対応は、例えば社員株主を最前列に座らせて議長の発言を大声で援護したり、株主から質問がでたりした場合には、説明を行わなくてよい場合(説明義務の除外事由)に該当するかどうかを先ず検討し、除外事由に該当しないときにのみやむを得ず最小限の回答をするというものであった。
また、総会屋の発言の機会を減らすことを目的として、いわゆる一括上程方式が考案された。先人の努力の結晶である。すなわち、それまで個別の議案ごとに審議・採決を行い、それが終わってから初めて次の議案に進んでいたのを廃し、全ての議案を一括して上程して一括審議し、採決に入った後は一切の発言・質問を受け付けず採決のみを行うというやり方が導入されたのである。
総会屋の激減による一般株主の発言の増加
その後、1996年から2004年ころの警察による利益供与罪の摘発により、総会屋は激減した。また、株主総会が「閉ざされた」ものとなってしまっていたことなどへの反省のもと、2004年に「経団連企業行動憲章」が改訂された。「社内外の声を常時把握し、実効ある社内体制の整備を行うとともに、企業倫理の徹底を図る」ことが目指されることとなったのである。
これ以降、株主総会の状況は大きく変化することとなった。社員株主が議席の前方を独占して「異議なし!」「進行!」と大声を張り上げて大きな拍手をしたりすることがなくなり、質疑のために十分な時間を設ける株主総会が増え、一般株主の発言も増加していったのである。
もっとも、多くの会社は、事前に準備したシナリオに忠実な総会運営を行っていたから、株主からの質問に対する回答姿勢には大きな変化はみられなかったのである。
「株主との対話」を求めるガバナンス・コード時代の株主総会
2015年6月に策定されたガバナンス・コードは、上場会社に「株主との対話」を求めている。株主総会の場も株主との対話の場の一つとして、株主と経営陣が直接対話をする機会と捉えられ株主総会の運営に大きな影響を及ぼし始めたのである。
ガバナンス・コードは、スチュワードシップ・コードと合わせて「車の両輪」(資料編・序文8項)をなすといわれる。どちらも上場会社に株主との対話を促しているのだ(ガバナンス・コード基本原則5・考え方、スチュワードシップ・コード原則4)。会社が中長期的経営を行うための「重要なパートナー」が中長期保有志向の株主だからである。そうした株主との対話が、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資すると2つのコードのいずれにおいても考えられているからである(資料編・序文8項)。
例えば、ガバナンス・コードは株主総会を上場会社と株主との「建設的な対話の場」(原則1-2)と捉え、その対話を促すために、例えば、以下の原則を規定している。
(i) 「相当数の反対票」が投じられた場合の原因分析と株主との対話(補充原則
1-1①)
(ii) 招集通知の早期発送(補充原則1-2②)
(iii) 株主総会関連の日程の適切な設定(補充原則1-2③)
スチュワードシップ・コードも、上場会社と株主(機関投資家)の対話を促している。信託銀行や生命保険各社は、スチュワードシップ・コードを受け入れて議決権行使方針を厳格化しており、上場会社としては、こうした機関投資家との対話を通じて経営方針や株主総会の議案内容について理解を得ておく必要性が高まっている。
現に、機関投資家から投資先企業に対し、経営戦略、ガバナンス、および資本効率などに関する質問が増えたとの調査結果があり、両者の対話は増えているといえるのである。
「株主との対話」は、株主総会での質疑に限らない。平時から日常的に行うことが重要である(基本原則5)。特に機関投資家にとっては、総会当日だけではほとんど無意味であり、年間を通じた平時のコミュニケーションが重要であって、その積み重ねが総会当日の議決権行使につながると指摘されている。
以上のとおり、株主総会については「株主との対話」を重視するガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードの考え方を念頭に入れておく必要がある。
以下では、2015年株主総会(2014年7月~2015年6月に開催された株主総会)においてこの2つのコードの考え方による変化が見てとれるかを検証してみたい。
また、上記の検証を踏まえ、2016年6月株主総会へ向けた心構えについても述べることとする。
相当数の反対票が投じられた場合
ガバナンス・コード補充原則1-1①は、上場会社に対し、株主総会で「相当数の反対票」が投じられた議案について、反対の原因分析や、株主との対話といった対応の要否についての検討を求めている。
東京証券取引所の一部および二部に上場している会社が、当該補充原則を実施した割合(実施率)は約98%に上っている(2016年3月時点)。
「相当数の反対票」の具体的な解釈は各社の取締役会の合理的な判断に委ねられている。例えば反対票の割合を算定するためとして、大東建託は株主総会後に出席株主に対する賛否の出口調査を行っている。
「相当数の反対票」が投じられた場合の対応についても工夫がみられ始めている。例えば、花王は、原因分析を行ったうえで機関投資家に対してレターの送付や直接対話による説明を実施するといった対応を行っている。また、ヤマハは、「相当数の反対票」が投じられた場合に限らず、定時株主総会の議案ごとの議決権行使の状況についても分析を行い、その結果を取締役会で報告を行っていると公表している。
上記のような各社の対応は、株主による反対の議決権行使などを分析し、「株主との建設的な対話」へとつなげる動きと評価することができよう。
招集通知の早期発送
補充原則1-2②は、上場会社に対し、「株主が総会議案の十分な検討期間を確保」できるように、招集通知について、早期に発送することと、発送前に自社ウェブサイトなどに掲載して電子的に公表することを求めている。
2015年株主総会においては、会社法で規定されている最低限の発送期間である中14日間(招集通知発送日の翌日から株主総会開催日の前日までの日数)をおいて招集通知を発送した会社の割合が21.5%であり、2014年から1.2%低下した。これに対し、中18日~27日間をおいて発送した会社の割合は増加(2014年の41.9%から43.5%)した。
招集通知を早期に発送しようとする上場会社の意向が見て取れる。もっとも、グローバルな投資家に対しては、1カ月以上前の送付が望ましいとの指摘があることから、上場会社によっては、さらなる取組みが求められよう。
ここで注目されるのが、2015年の株主総会については、招集通知を発送する前に電子的に公表した上場会社が、2014年の8.4%から42.4%へと、33.8%も増加した事実である。
ガバナンス・コードの策定により、一気に実施の機運が向上したためであると指摘されている。
このように、招集通知の内容は、徐々にではあるが、早いタイミングで株主に届くようになってきている。多くの上場会社が、「総会議案の十分な検討期間」を確保し、「株主との建設的な対話の場」である株主総会の充実に向けた取り組みを始めているといえよう。
株主総会関連の日程の適切な設定
補充原則1-2③は、上場会社に対し、「株主との建設的な対話の充実」などを考慮し、「株主総会関連の日程の適切な設定」を求めている。
株主総会開催日を決定するにあたり、「集中日をできるだけ避ける」と回答した会社は増加傾向にある。具体的には、2014年(2013年7月から2014年6月に実施された株主総会)には33.7%の回答割合であったものが、2015年(2014年7月から2015年6月に実施された株主総会)には35.6%と1.9%増加している。
2016年6月期の株主総会では、集中日に株主総会を開催する予定の会社は32%(2395社のうち733社)となり、過去最低となる見込みである。ピークだった1995年の96%に比べれば64%の減少である。この減少傾向は続くものと思われる。
なぜなら、この傾向は複数の上場会社の株主であるものに対してより多くの株主総会に出席し、発言する機会を提供するものであり、「株主との対話」を進めようとしている表れと言えるからである。
株主総会の所要時間
2015年の株主総会の平均所要時間は54分であり、2014年からの50分から4分増加した。発言株主の数と発言件数の増加などが影響していると分析されている。
例えば、AA型種類株式について決議を行ったことで注目を集めたトヨタの2015年6月株主総会は、発言者数が増加したことから、株主総会の所要時間が過去最長(約3時間)となった。
株主総会の開催時間については、より多くの株主が発言することができるよう、さらに長時間を確保することにより建設的な対話をより実のあるものとすることも検討に値しよう。
株主からの質問
株主総会を株主との対話の場と理解する際に、分かりやすい基準となるのは、株主との質疑応答の数と内容であろう。
2015年の株主総会において、株主から質問のあった上場会社は全体の62.1%となり、前年の39.6%から22.5%も増加した。
質問の内容についても、経営政策、配当政策、財務状況、株価動向、社外取締役などコーポレートガバナンスに関連して、幅広い事項についての質問がなされており、多様な視点から株主と上場会社との対話が行われていることがうかがわれる。
例えば、上場会社のROEについて以下のような質問が出されたとのことである。
【質問例】
- 他の会社と比較して当社のROEが低いのはなぜか。
- 当社は、中長期的には、どの程度のROEを目標にしているのか。
- ROEの目標を達成するための手段として、例えば自社株買いを実施することは考えているか。
ガバナンス・コード原則5-2は、ROEについて、経営戦略などの策定・公表に当たり、「収益力・資本効率等に関する目標を提示」するべきであると規定している。ROEは、資本効率に関する「目標」として用いられることが多い。
2014年8月に公表された伊藤レポートは、最低限8%を上回るROEを達成することを各企業はコミットするべきであると述べている。
ROEは、機関投資家が投資先企業との対話において重視する項目であるうえ、上記のようにガバナンス・コードや伊藤レポートにおいてROEを重視する傾向が強まっていることが影響して、ROEについての質問が増えているものと考えられる。
また、以下のようなコーポレートガバナンスに関する質問も増加している。
【質問例】
- コーポレートガバナンス・コードは独立社外取締役を少なくとも2名以上選任することを求めているが、当社はどのような方針か。
- 当社は監査役設置会社であるが、会社法改正により新設された監査等委員会設置会社への移行は検討していないのか。
コーポレートガバナンスに関する質問数の増加は、会社法改正やガバナンス・コード策定をきっかけにガバナンス体制に対する社会的関心が高まったことを背景として、株主においてもいっそうの関心を抱くようになったといえよう。
2016年株主総会へ向けて
上場会社としては、平時からの対話に努め、株主総会はその対話の重要な一環、すなわちキーストーンとして理解するべきであろう。ガバナンス・コードも、「株主総会以外の場においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである」(基本原則5)と規定している。
株主との対話の窓口としては、社外取締役の活躍が期待されていることに注意すべきである。ガバナンス・コードは、株主総会の場以外での株主との対話に努めるべき者や、株主と面談をする者の例として、社外取締役を明記している(原則5、補充原則5-1①)のだ。
社内のしがらみに捕らわれずに行動することができる社外取締役なかでも独立社外取締役は、株主を初めとする全てのステークホルダーの代表として、経営陣と株主との間の橋渡しをする役割が求められているからである。
カプコンは、社外取締役と機関投資家との間でミーティングを開催していたとのことである。このように、社外取締役による平時からの対話を実践している会社も既に存在しているのである。
株主総会での対話は、招集通知などの情報に基づいて行われることになるが、それだけでは情報が限られてしまう。平時から株主との対話を行うことでより多くの情報を共有することができれば、株主総会での対話の活性化につながるのであり、会社の方針を理解したうえでの株主の議決権行使にもつながるのである。
ガバナンス報告書を意識した準備
既に述べたとおり、多くの会社において今年の株主総会は、ガバナンス・コードに対応したガバナンス報告書を提出してから初めての株主総会となる。
株主がガバナンス報告書を読んだ上で株主総会に出席することが想定される。そのため、株主からは、ガバナンス報告書を意識した以下のような質問がなされることが予想される。
【質問例】
- 報告書で開示した後のコーポレートガバナンス・コードへの取組み状況について説明してほしい。
- 当社のガバナンス報告書では、取締役会の実効性評価を実施しておらず、今後実施・開示予定とされているが、実施したのであれば結果を教えてほしい。
- 最近では任意の指名委員会や報酬委員会を設置する例が増えているようであるが、当社は設置する予定はないか。
また、ガバナンス報告書で、ガバナンス・コードの原則を実施せず、その理由をエクスプレインしているものの中には、対応について「検討中」としているものが多い(全エクスプレインのうちの約45%、2015年12月時点)。
そのような開示をした上場会社においては、検討結果について株主総会で質問されることが予想されるため、あらかじめ対応について検討した上で株主総会に臨む必要がある。
議決権行使助言会社の最新動向
株主、特に海外の機関投資家の意向を踏まえた準備を行うには、議決権行使助言会社の助言基準を参照することが有用である。外国株主による持株比率が高い上場会社にとっては必須と言える。最大手の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、2016年も、クックパッドの株主総会において、会社提案に係る取締役再任案に反対を推奨し、話題となった。
ISSは、今年もコーポレートガバナンスに関して厳格化・明確化する方向で助言基準を変更した。
象徴的な変更点は、監査役設置会社において、総会後の取締役会に最低2人の社外取締役がいない場合、経営トップである取締役に反対を推奨するというものである。2015年は、「社外取締役が1人もいない場合」に反対を推奨するとしていた。ガバナンス・コードで「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである」(原則4-8)と規定されたことを踏まえたものである。ただし、ISSは、親会社や支配株主を持つ会社を除き、社外取締役が独立であることまでは要求していない。
仮に議決権行使助言会社の反対推奨を受けて、株主が議案に反対の意向を示したとしても、株主との対話を通じて議案についての理解を得ることは十分可能である。
ガバナンス・コードの普及・定着状況をフォローアップし、上場会社全体のガバナンスを向上させること目的に金融庁に設置されたフォローアップ会議でも、「議決権行使助言会社は、形式的な企業の対応を助長する結果につながらないよう、実質的な判断を行うよう努めるべき」であり、「機関投資家も、議決権行使助言会社の助言に形式的に依拠するのではなく、……自ら実質的な判断を行う必要」があると指摘しており、傾聴すべきである。
機関投資家等による総会出席への対応
補充原則1-2⑤は、信託銀行等を通じて株式を保有する機関投資家(実質株主)が株主総会への出席などを希望した場合の対応の検討を上場会社に求めている。
多くの上場会社が定款で「代理人は株主に限る」旨を規定しており、株主名簿上は株主ではない実質株主の総会出席・議決権行使が可能かどうかはこれまで不明確であった。
2016年の株主総会では、2015年11月に、全国株懇連合会(株式実務担当者の集まりで、株式実務に関する調査・研究などを行う)が、「グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン」を策定しているため、同ガイドラインを参考に対応方針をあらかじめ検討しておく必要があろう。
株主総会の運営
株主からの質問に対しては、想定問答の読み上げではなく、自らの言葉で正面から回答することが、「株主との建設的な対話の場」である株主総会におけるやり取りとして望ましいことは論を俟たない。
経営について正面から問う株主からの質問には、取締役も、自らの信念にもとづき、自らの言葉で、自社の経営状況を株主に説明するべきなのである。
株主総会でより踏み込んだ議論を行うための工夫として、例えばエーザイでは、以下のような想定問答を株主総会招集通知に掲載している。
Q |
社外取締役はどんな活動をしていますか? |
A |
取締役会では、法令、定款および取締役会規則で定められた決議事項(執行役の選任、中長期経営計画の基本方針、年度事業計画、四半期ごとの決算など)の審議および決定を行うとともに、執行役の業務執行状況について随時報告を受けています。これらに対して社外取締役は、それぞれの専門性や株主様の視点にもとづいて適切な意見を適宜述べ、経営の監督機能を十分に果たしています。 |
この結果、株主総会当日は、上記のような想定問答を踏まえ、さらに踏み込んだ内容について会社と株主とのやり取りが行われることが期待できよう。
ガバナンス・コードはプリンシプルベース・アプローチを採用しているため、ガバナンス・コードを踏まえた株主総会の準備・運営は会社ごとに異なるはずであるし、むしろ各社の特性に応じた多様な株主総会が実施されることこそが望ましい。経営は各社各様だからである。それこそが中長期的な企業価値の向上と持続的な成長につながる道であろう。
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