企業がROEの目標値を開示するように

 上述したとおり、コーポレートガバナンス・コードは、収益力・資本効率等の向上という観点から、資本政策の基本的な方針の説明や収益力・資本効率等に関する目標の提示などを求めている(原則1-3、5-2)ものの、これらの説明、提示に際し、ROEを指標として用いることは求めてはいない。

 しかしながら、実際には、ROEを重要な指標と捉えて、ROEを用いた具体的な説明や目標値の提示を行う企業が多く存在する。

 例えば、エーザイは、コーポレートガバナンスに関する報告書において、資本政策の基本方針(原則1-3)の開示として、以下のように「中長期的なROE経営」を目指すことを説明している。

…日常の運営における資本政策は、株主価値向上に資する「中長期的なROE経営」、「持続的・安定的な株主還元」、「成長のための投資採択基準」を軸に展開しています。 当社は、ROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と捉えています。「中長期的なROE経営」では、売上収益利益率(マージン)、財務レバレッジ、総資産回転率(ターンオーバー)を常に改善し、中長期的に資本コストを上回るROE…をめざしていきます。…

 また、コーポレートガバナンス・コードは、原則5-2が提示を求める収益力・資本効率等に関し、具体的な目標値を開示することまでは求めていないものの、2015年度の生命保険協会の調査によると、上場企業の41.0%がROEの目標値を開示している。以下の上場企業がその例である。

企業名 開示内容
大和ハウス工業 中期経営計画でROE10%以上を目標
双日 中期経営計画でROE8%以上を目標
荏原製作所 ROEの目標値を過去の実績と対比して記載

 日本企業のROE重視の傾向は、このようなコーポレートガバナンス・コード対応に端的に現れているといえる。

株主総会における議決権行使の変化

 ROE重視の傾向は、株主総会における議決権行使にも変化をもたらしている。

 例えば、議決権行使助言会社である米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、2015年2月から、過去5期のROEの平均値が5%を下回る企業の経営トップの取締役選任議案について、原則として反対することを推奨している。

 この影響を受けて、2015年の株主総会では、低ROE企業の経営トップの取締役選任議案に反対する株主が急増していた。前期ROEが3%であったキリンホールディングスでは、取締役の選任議案において、社長への反対票が2014年の3%から17%に増加した。また、前期ROEが0.6%であった東洋製缶グループホールディングスでは、取締役の選任議案において、社長への賛成票が13%低下した。

 議決権行使については、議決権行使助言会社のみならず、国内の機関投資家にも変化が見られる。例えば、信託銀行は、ROE5%未満の企業に対し、取締役の選任議案に反対することを検討するなど、ROEを重視した議決権行使を行う旨を明らかにしている。

 以上のように、ROEが低い企業においては、何らかの対応が必要な状況になっている。なお、前述のISSについては既視感がある。社外取締役の導入の経緯とそっくりという点だ。

ROEを高めるための自社株買い

 ROEが重視される傾向の中、自己資本を減らすことで短期的にROEの向上を図ろうとする企業が散見される。