ROE重視の背景:日本企業のROE

 伊藤レポートによると、日本企業のROEは、以下のとおり欧米企業に比べて非常に低い水準にある。

各国企業のROE平均(2012年)
米国 22.6%
欧州 15.0%
日本 5.3%
(注1)2012年暦年の本決算実績ベース、金融・不動産除く(注2)対象=TOPIX500、S&P500、Bloomberg European 500 Index対象の企業のうち、必要なデータを取得できた企業
出所:伊藤レポート

 同レポートは、日本企業のROEの低さが低い収益性(売上高利益率)に起因しているという。

 もともと日本企業の低いROEに対しては、海外機関投資家から批判の声が強かった。2013年度には、企業業績の改善に伴い日本企業のROE平均は約8%に上昇したものの、依然として欧米企業に比べると低い水準にあり、海外機関投資家を納得させているとまでは言いがたい状況である。

コーポレートガバナンス改革でROE重視の傾向が加速

 アベノミクスのもと、日本企業のROEを向上させるための改革が行われてきた。上記時系列の一覧表のとおりである。

 JPX日経インデックス400は2014年1月から算出が開始された。「投資者にとって投資魅力の高い会社」を400銘柄選定している。重要なのは、400銘柄の選定基準となる定量的な指標として3年累積営業利益や時価総額と並んで「3年平均ROE」を挙げていることである。

 JPX日経インデックス400は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用インデックスの1つとして追加された。また、日銀が買い入れている上場投資信託(ETF)にも追加された。そのため、この400銘柄に選定されるか否かは株価を左右する。したがって、経営者にとっては「投資者にとって投資魅力の高い会社」に選ばれることは重大事である。その結果、これまで日本の投資指標として有効性が低かったROEに対する日本企業の意識が変わり、ROEが注目を集めるきっかけになったと言われている。

 日本版スチュワードシップ・コードは、JPX日経インデックス400の翌月である2014年2月に制定された。同コードにより、ROEは資本効率の向上という観点から機関投資家との対話の主要なテーマの1つとなっており、その結果ROE重視の傾向に拍車がかかっている。今では、ROEは「株主還元策」に次ぐ株主総会における焦点とすらいわれているのだ。

 その直後、2014年8月に発表されたのが伊藤レポートである。「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」が目標として掲げた「グローバル水準のROEの達成」を伊藤レポートは、「最低限8%」と具体的な数値をあげて提言している。

 伊藤レポートの反響は非常に大きく、経営者のROEに対する意識はこれで決定的に高まったと言われている。実際にも、伊藤レポート公表後、ROEを経営指標として掲げ、目標値の設定や開示をする企業が増えてきている。

 最後がコーポレートガバナンス・コードである。2015年6月に施行された。ここでは、ROEという言葉は使われていないが、収益力・資本効率等の向上という観点が取り入れられている。日本の株式市場の低迷や資本効率の低さといった問題意識を踏まえてのものと指摘されている。

 例えば、コーポレートガバナンス・コードの基本原則4は、取締役会に対し、「収益力・資本効率等の改善を図るべく(中略)役割・責務を適切に果たす」ことを求めている。また、同コードの原則1-3は資本政策の基本的な方針の説明を求め、原則5-2は収益力・資本効率等に関する目標の提示を求めている。

 こういった一連のコーポレートガバナンス改革を受けて、日本企業のROE重視の傾向はますます強まっているのである。