シャルレ事件

 シャルレの株主代表訴訟事件では、MBOにおける社外取締役の責任が問題となった。
 事案は、MBOを計画したものの、その後頓挫したというものである。

 当時の社長が、公開買付けの価格の算定方法に不当に介入していたことが内部通報を契機に発覚したため、株主が当時の取締役計5名(うち社外取締役3名)に対して、株主代表訴訟を提起したのである。

 大阪高等裁判所は、レックスHD事件で認められた公正価値移転義務を前提として、創業家一族である社内取締役2名について1億2000万円の損害賠償責任を認めた。この判決は2016年11月に確定している。

 取締役が企業価値の移転について公正を害する行為を行えば、公開買付け、ひいてはMBO全体の公正に対する信頼を損なうことにより、会社は本来なら不要な出費を余儀なくされ、取締役は、そのことによって会社が被った損害を賠償すべき義務を負うとしたのである。具体的には、MBOの公正が疑われたことにより、会社は弁護士や第三者委員会などを用いて検証、調査等をすることになったのであるから、MBOの公正を害した取締役はその検証、調査等のための費用について賠償すべしということである。

 社外取締役3名について、一審である神戸地方裁判所は善管注意義務違反を認めたものの、損害との因果関係は否定し、賠償を課していない。神戸地方裁判所は、取締役が株主に対する情報開示義務を負っており、株主の判断のために、重要な事項について虚偽の事実を公表し、または重要な事実の公表を怠った場合には、情報開示義務違反の問題を生じ得るとした。

 その上で、本件では、実際には弁護士からMBOの価格算定の過程について善管注意義務違反に問われる可能性を指摘され、社外取締役がその旨の意見書の受領を拒否したにもかかわらず、公開買付けに対する賛同意見表明のプレスリリースにおいては、法的論点について弁護士のアドバイスを参考にして、取締役会が賛同意見表明に至ったかのような記載をしていた点が問題とされた。このプレスリリースの記載が株主に誤解を生じさせるおそれのあるものであるとして、社外取締役3名を含む取締役5名について情報開示義務違反を認めたのである。

 二審の大阪高等裁判所では、社外取締役の善管注意義務違反も否定され、最終的に社外取締役の善管注意義務違反は認められなかったにもかかわらず、神戸地方裁判所の判決については、社外取締役に重い責任を課したと一般に評価されている。

 今後、MBOでは公正な手続のため株主に配慮することが求められている。そこでは最近増加した独立社外取締役が積極的に役割を果たすことが重要である。コーポレートガバナンス・コード(原則4-7(iii))が、社外取締役が「会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督する」役割・責務を果たすことを期待しているとおりである。

 社外取締役による利益相反の監督が必要となるのは、MBOの場面だけではない。MBO以外の場面においても、M&Aなど利益相反の状態が生じる可能性がある場合には社外取締役が機能することが期待される。通常のM&Aでも、買収対象会社の取締役が、買収された後の会社での役職を確保し、自身の報酬を増加させるなど、本来株主が得るはずの利益を自らの利益にしてしまうおそれがあり、利益相反の問題がある。

 このような利益相反を回避するため、経営陣から独立した社外取締役が、デューデリジェンスの結果の検討や買収価格の公正さなどについて積極的に意見を述べることが期待されている。MBOの場合と同様に、第三者委員会を設置し、社外取締役を委員として活用することも考えられる。社外取締役の活躍がますます求められているのである。

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