2017年2月、アデランスがMBO(経営陣が参加する買収)により上場廃止した。業績低迷が続いていたので、非上場化して事業基盤を強化するとのことである。

 このMBOの際に行われた公開買付けにおいて、公開買付価格に一部の株主が不満を抱いたことから、少数株主保護のあり方に注目が集まり、社外取締役のあり方が大きく問われることになった。

 MBOでは、経営陣が買収者なのであるから、当然に株主との間に利益相反があり、したがって手続の公正さが問題となる。コーポレートガバナンス・コードも、MBOに関して、適正な手続を確保することを求めている(原則1-6)。

 MBOに限らず、経営陣と株主との間に利益相反が生じる場面では、社外取締役が手続の公正さをモニタリングするなど、利益相反を回避するための中心的な役割を果たすことが期待されている。米国では既に30年前に、会社を合併により他の会社に売却した事案で、事前の情報収集や取締役会での議論が不十分であったから、合併を承認したことには重大な過失があったとして、社外取締役を含む取締役の損害賠償責任が認められた例があった(ヴァン・ゴーコム事件)。

 また、MBOのなされた後に再上場が目指されることは当然の選択肢の一つである。
 MBO後の再上場については、2016年12月、日本取引所グループ(東京証券取引所、日本取引所自主規制法人)がMBOの再上場指針を公表している。東証は、少数株主保護に問題があった場合に再発防止のガバナンス体制の構築を求めている。日本取引所は、MBOに投資したファンドの投資期間を踏まえて、今後、MBO後の再上場が増加する可能性を指摘している。MBOの再上場指針によると、上場審査ではMBO時の手続のMBO指針への準拠性などを確認することとされている。再上場を予定する場合においても公正な手続によりMBOを実施することが重要なのである。

 現に、2017年2月、MBOにより上場廃止となったスシローが、再上場の承認を受けた例が報道されている。

 以下では、MBOの概要や問題点を紹介するとともに、MBOにおける社外取締役の役割の重要性などについて解説する。

MBOとは何か

 そもそもMBO、マネジメント・バイアウトとは、上場会社の経営者が株主から株式を買い取って会社を非公開化する取引であり、LBO(対象会社の資産を担保として資金調達を行う買収。レバレッジド・バイアウトと呼ばれる)の形態で実行されるのが通常である。LBOでは、1980年代後半の米国におけるRJRナビスコのLBOが話題となった(詳細については、同社の買収にいたる経緯について書かれた『野蛮な来訪者 -RJRナビスコの陥落』(ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー著、鈴田敦之訳、日本放送出版協会)を参照されたい)。経営者のMBOから始まって、最終的に投資ファンドがLBOするという劇的な結末に至った、よく知られた案件である。

 MBOは、まず、投資ファンドや銀行から資金調達して、公開買付け(TOB)により会社の株式を取得し、その後、公開買付けに応じなかった株主の株式を強制的に買い取るという手順により行われることが多い。

 MBOの狙いは企業価値の向上である。MBOにより機動的な経営改善を可能にしようというのである。その意味で、MBOは長期的経営により会社を拡大させるという経営者の意欲の表れである。

 上場していれば、市場の短期的な利益志向にも配慮して経営しなければならない。非上場化することで初めて、市場から短期的な利益の向上を求められなくなり、大きなリスクテイクや事業改革といった長期的な経営が可能となる。その他にも、MBOには上場コストの削減や従業員等の士気の向上といったメリットもある。

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