増える株主優待制度を活用する企業
より一般的な中長期保有志向の株主を確保するための方策として、トヨタのような種類株式の活用ではなく、株主優待制度を利用することも考えられる。
最近では、中長期の株式保有を優遇する株主優待を新たに導入する企業が増加している。
大和インベスター・リレーションズの調査によれば、2015年12月18日時点で、株主優待を実施している上場会社1251社のうち、190社が中長期保有の株主を優遇する制度を採用しており、中長期保有の株主を優遇する制度を採用した上場会社は2014年末から5割弱も増加したという。
持ち合い株式の減少などによる安定株主の減少を受けて、中長期安定株主を増やしたいという企業側のニーズが背景にある。
中長期保有の株主を優遇する株主優待制度を採用している企業の例としては、以下があげられる。
企業名 | 優待内容 |
---|---|
イオン | 株式を3年以上継続保有している株主へ保有株式数に応じてイオンギフトカードを進呈 |
オリエンタルランド | 100株以上の株式を3年継続保有した株主へ株主用パスポートを2枚配布 |
ヤマダ電機 | 「1年以上2年未満の継続保有」、「2年以上継続保有」の株主(3月末基準日)に持株数に応じて優待券を贈呈など |
小林製薬 | 単元株式を「3年以上保有」している株主に対し自社製品詰め合わせの送付するなど |
株主優待制度をめぐっては、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」とする会社法上の株主平等原則に違反するのではないかという議論がある。
しかし、当該原則が求める株式の「数」に応じた平等取扱いは、株主の個性に着目せずに、株式の数に着目して合理的な取扱いをすることを求めるものであり、比例的取扱いを企業に義務付けたものではない。
株主優待制度のように、一定の目的を達成するために保有株式数に着目して段階的に区別した取扱いをすることは、合理性を欠く差別的なものでない限り、株主平等原則に反しないとするのが一般的な見解である。
中長期保有の株主を優遇する優待制度は、今後も増えていくと考えられる。
「重要なパートナー」確保のために求められる創意工夫
企業にとって「重要なパートナー」となる中長期保有志向の株主を確保するために、今後は各企業において創意工夫を行っていく必要がある。
また、このような取り組みは、積極的な情報開示やコーポレートガバナンス・コードに基づく株主との建設的な「目的を持った対話」によって、さらに充実を図ることができる。具体的な方策は、種類株式の活用や株主優待制度の活用など様々だ。
フランスでは、「フロランジュ法」の制定により、長期株主の保護強化のため、1株1議決権原則を定款に明記しない限り、株主名簿に2年以上登録されている株主に当然付与されることとなった。同法により、ルノーおよびエールフランスKLMなどにおいて2倍議決権制度が導入されたという。このような方法により中長期保有株主を重視していく国もある。また、日本では、トヨタのような種類株式とは別に、普通株式について、保有期間に応じて配当金を増額できるようにするための制度改正を望む声もある。
コーポレートガバナンス・コードのもと、各企業には、中長期保有志向の株主を「重要なパートナー」として持続的な成長を実現するための取り組みを行っていくことが求められる。
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