一方で、株主からの提訴請求を受けて監査役が役員を提訴した場合には、保険会社が保険金の支払いを免責され、監査役が提訴せずに株主代表訴訟が提起された場合には保険会社が保険金の支払いを免責されないという結論の違いが果たして適切なのかという議論は従来からされてきた。会社が役員を提訴した場合に保険会社が保険金の支払いを免責されるとすれば、独立役員や社外取締役の監視が重要とは言いながら、会社から訴えられるところまで会社と対立した場合には、D&O保険の保護も失われてしまうという仕組みになってしまうからだ。
海外では会社から役員が提訴された場合も含めて保険金を支払うのが主流であり、会社から提訴された場合に保険会社が補償しない日本のD&O保険は、外国人役員を呼び込む際の障壁になっているとの指摘もある。
このような状況下で、保険需要の高まりもあり、東京海上日動火災保険は、2016年春から、会社から提訴されたケースも含めて保険金を支払うパッケージ商品の販売に踏み切った。また、三井住友海上火災保険も2017年4月から、会社から提訴された役員にも保険金が支払われるようにするとのことである。今後、会社が役員を提訴した場合にも保険金が支払われることが内容となったD&O保険商品が増えていくのではないかと思われる。
国内外から優秀な人材を確保し、適切なインセンティブを創出するためには、ただD&O保険に加入しているというだけではなく、それぞれの会社の事情に応じて最適な契約内容のD&O保険を備える必要がある。D&O保険は、役員就任条件の1つとしてきわめて重要な要素であるからだ。
現在D&O保険市場は拡大の道をたどっている。損保大手4社のD&O保険料収入は2015年度には初めて100億円を超えた。三井住友海上火災保険は、2017年4月から、D&O保険料を20%引き下げ、補償の対象範囲も広げ、所属会社から提訴された役員にも保険金が支払われるようにすることで、使い勝手を高め、中小企業の利用拡大を促している。
今後D&O保険がより普及していき、それにより攻めのガバナンスがより実践されてゆく道が開けたということができるであろう。

18人の経営者との対話によって、日本にふさわしいコーポレートガバナンスとは何か、さらには資本主義とは何かについて明らかにした一冊です。
対談の中で言及される、コーポレートガバナンスに関する専門知識については、該当箇所にキーワード解説を付記。また、キーワードは後半の「理論篇」ともリンクしているので、対談の内容を、理論で補完しながら読み進められる構成となっています。ぜひ、お読みください。
Powered by リゾーム?