さらに、2016年2月、国税庁は、経済産業省からの照会に回答する形で、取締役会の承認を得た上で、社外取締役全員の同意を得る等の一定の手続きを経た場合には保険料を会社が全額負担しても役員個人に対する給与課税はなされないこととされた。このような手続きを経た場合、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられ利益相反が問題とはならないためである。

 では、会社が適法に保険料を全額負担し、かつ、役員個人に対する給与課税がなされないようにするための一定の手続きとは、実際上はどのような手続きで、どのような趣旨に基づいているのであろうか。

 会社が保険料を全額負担することが適法となる場合として、(1)取締役会の承認を得ること、かつ、(2)社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意を得るか、または社外取締役全員の同意を得ることが上記「コーポレート・ガバナンスの実践」には挙げられている。また税務上は、(1)および(2)の手続きを経た場合であれば、会社が保険料を全額負担したとしても、役員個人に対する給与課税がなされないとされている。

 (1)の取締役会の承認を要求する趣旨は、D&O保険料を会社が負担することの実質的・構造的な利益相反性に配慮した手続きを経るべきという点にある。すなわち、役員が損害賠償責任等を負担することとなる場合、D&O保険によってその損害を填補することになるため、D&O保険料を会社が支払うことによる会社からの財産支出が最終的には役員の利益につながる可能性がある。このような点において、実質的・構造的な利益相反性があるのだ。

 (2)の社外取締役の関与が求められている趣旨は、上記のような実質的・構造的利益相反に対する取締役会による監督に加えて、D&O保険料を会社が全額負担するというインセンティブを役員、ことに社内取締役に与えることが適切か否かについて、社外取締役が監督することを期待されているためと考えられている。また、現行法制下では、D&O保険の保険料は株主への開示対象にはなっていないことから、株主からの監督の代替としての機能をすることも考慮されていると言えよう。

新型D&O保険の誕生

 このようなD&O保険料の新たな取り扱いに関する一連の公表を受けて、保険会社は「新型D&O保険」の販売を開始した。

 従来のD&O保険は、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合、保険会社が保険金の支払いを免責される旨の条項が基本契約(普通保険約款)に規定されていたから保険金が支払われることはなかった。そのため、各役員が個人の負担で、株主代表訴訟担保特約に加入するのが通常となっていたのである。

 これに対し、「新型D&O保険」は、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合に保険会社が保険金の支払いを免責される旨の条項を適用除外とし、さらに、普通保険約款に係る保険料と株主代表訴訟担保特約に係る保険料を分断せずに一体とみなされる旨の特約を付したものとなっている。D&O保険料全額を会社が負担する体制が整ったのだ。