空き家や自宅の誰も使っていない部屋を活用してお小遣いを稼ぐ。そんな新しい不動産の使い方を実現できるのが、人気急上昇中の「民泊」だ。儲けたい、楽しみたい、その目的はいろいろ。後編の今回は、民泊のホストたちは、どんな工夫をして運営しているのか、その現場を見てみる。
(記事の最後に1万円の商品券が10名様など51名の方にプレゼントが当たるアンケートの案内があります)
ゲストと食事や掃除を一緒に
「世界中に家族がいる感じ」。嘉手納知幸さん(39歳)は、日本で民泊が流行る以前の2013年頃から、外国人のホームステイを受け入れてきた。数カ月の長期滞在者をメーンとして、補完的に短期滞在の民泊を受け入れている。場所は東京都昭島市。JR中央線で新宿駅から約40分、駅から徒歩7分程度と都心からやや離れているが、これまで迎えたゲストは35組。今でもその8割と交流を続け、リピーターも多いという。
多くのリピーターを獲得した秘密は、嘉手納流の「おもてなし」だ。ゲストと一緒に和の文化を楽しむほか、朝食を共にし、食事の用意や掃除なども一緒にやる。スウェーデンの男性(74歳)は「日本に新しい家族ができた」と、毎年春先にバカンスに訪れる。
外国人のゲストに、家族同様に接してもてなす嘉手納さん(写真左の右側)。一緒に餃子を作って食べたり、座禅や書道など和の体験に誘ったりと、共に楽しむことが喜ばれている
嘉手納さんが代表理事を務める日本ホストファ ミリー養成協会では、ホストファミリー向けの他、賃貸経営のノウハウについての講習も行う。
http://jhfta.org/*=ゲストはサイトで物件を選ぶ際、金額などの条件に加え、既に利用したゲストのレビューも重視する場合が多い。そのため、好レビューを獲得するのは重要なポイント
同じ家族として和のおもてなしを提供
ホームステイ向けには、家族と暮らす3階建て賃貸併用住宅の4室を利用している。2室は玄関が別の完全分離型。残り2室は自宅内の部屋で玄関やバス・トイレは家族と共用だ。1泊の料金は、分離型が約3000円。共用型は食事込みで4000円。4室からの収入は、15年の場合、年132万円、月の平均は約11万円だった。
「仮に分離の2室を普通に貸した場合、近隣相場から見積もると家賃収入は年85万円程度」(嘉手納さん)。だが「自宅部分も生かしたホームステイの受け入れで、年85万円の家賃収入は達成している。さらに稼ぐこともできるが、収入ではなく、出会いを楽しむことを優先したい」と考えている。また、外国人と交流することで子供の語学力アップも期待している。
嘉手納さんは元サラリーマン大家さん。会社員時代から不動産投資に興味があり、競売で手に入れた中古マンションを皮切りに賃貸経営をスタート。その後、2棟目のマンションと現在住んでいる賃貸併用住宅を各々約4000万円で購入し、5年前に退職してからは、専業大家としてこれらの賃貸物件をフル稼働させてきた。2棟のマンションはほぼ満室稼働中だ。
「社団法人 日本ホストファミリー養成協会」の代表理事としても活躍中。経験を生かし、ホストや賃貸運営のノウハウについて講演や指導に力を注ぐ。
縁を自ら作り費用少なく民泊開始
会社員の川村淳さん(仮名・26歳)は、都内を中心に現在5部屋を民泊向けに貸している。そのうちの1物件は、川村さんが暮らす2DKの自宅内の1部屋だ。
全て賃貸物件のため、初期投資額は賃貸契約時に払う敷金や礼金などの数十万円のみ。一方の収入額は月40万~80万円に上る。ここから家賃などを払い、手取りは20万~40万円程度だ。物件は、大家が集まる会などに積極的に参加し、知り合った不動産オーナーと上手に話を進めて借りたもの。部屋を民泊に利用する許可も得ている。
自宅に迎え入れつつも、個人の時間と空間を確保できるよう気遣う。付かず離れずのケアを心がける
一緒に食事に出かけて記念写真も
日中は仕事で忙しく、ゲストをもてなす時間は限られる。だが、川村さんは極力、滞在中に1度は食事に誘い、一緒に記念写真を撮るなどして好レビューにつなげている。部屋には必ず抹茶のお菓子を置いて迎えるなどの心遣いもゲストに好評。
今後は、お土産を買うのに役立つサイトを紹介するなど、多彩な情報ガイドを作ろうと考えている。
丁寧な案内がおもてなしの基本
初めにしっかり対応すれば、トラブルを避け、ファンを増やす結果につながる
民泊を盛り上げるために個人で運営の支援を行っている伊藤愛美さんによると、民泊運営では「迎え入れ段階で、案内を怠らないのがおもてなしの基本」という。例えば、初めての土地で外国人の旅行客が道に迷うケースは多い。「写真入り地図を渡すといった配慮をしたい」
日本の「ゴミ出し」のルールも分かりにくい。イラストを使うなど丁寧な説明が求められる。場合によっては、ゴミ捨てをゲストに任せずホストが行うなど、近隣に迷惑がかからないよう努めるのが大原則だ。
これら一連の業務を担う運営代行会社も数多いが、「信頼できる先を探すには実際に使った人の評判を聞くのがよい」(伊藤さん)。関連のイベントや交流会などで出会った仲間の口コミが参考になるようだ。
物件登録後30分で4件問い合わせ
「使われていない部屋をシェアして有効活用する」のが民泊本来の姿。これを見事に実現しているのが高島裕二さん(仮名・26歳)だ。高島さんが民泊のホストを始めたのは2015年6月。賃貸アパートの大家をしていた祖父が老人ホームに入所し、代役を頼まれたのがきっかけだ。
東京都墨田区にあるアパートは築35年の木造2階建て。風呂なし、エアコンなしの1Kの和室が全8部屋で、入居者がいるのは2階の3部屋のみ。いずれも高齢者で、20年以上住み続けている。
大家となった高島さんは、空き部屋になっている1階4部屋を民泊向けに貸し出すことを考えた。ところが、アパートの隣に住んでいた祖父が、1階の部屋を長年にわたって物置代わりに使ってきており、3部屋は完全にごみ屋敷状態。何とか貸せる状態だったのは1部屋しかなかった。
いくらで貸せるのか……。部屋代の見当が付かなかった高島さんは、適当に1泊2000円と値付けして民泊仲介サイトに登録した。この値付けが周辺相場よりかなり安かった上に、東京スカイツリーから徒歩圏内という立地も幸いしてか、登録してからわずか30分もしないうちに問い合わせメールが4件も。
「写真も登録していないのに、この反応はすごい」と驚いた高島さんは、すぐに1泊4000円に改定。以来、変動はあるが、夏季など多い時は、月4万~5万円の部屋代収入があるという。
ベッドは木の枠にスノコが置いてあるだけ。風呂なしなので銭湯への案内図を作り、湯上がりに使うタオルも用意
風呂・エアコンなしでもニーズあり
部屋の備品はなるべくお金をかけずに調達している。ベッドは友人からの貰い物で、木製の枠にスノコが載っているだけ。多少ガタがあったが、粘着テープで修繕した。天井のシーリングライトはリサイクルショップで2000円で購入。総額1万円足らずでおもてなしの態勢を整えた。
部屋には意外なオブジェも置いている。祖父が暮らしていた部屋の隅に鎮座していた、元は「ごみだらけの仏壇」だ。これをピカピカになるまで磨き、民泊用の部屋に持ち込んだ。祖父が自宅に大量にため込んでいたタオル類も、ゲスト用の備品として活用している。
実は高島さん、民泊を始めた頃に勤務先が廃業、社会人3年目にして職を失うという事態に見舞われている。現在は知人の紹介で塾講師の職を得ているが、収入面での不安は大きい。民泊の部屋が稼ぎ出す宿泊料は貴重な収入源となっている。今後は1階の残り3部屋も片付けて、民泊用の部屋を増やしていく予定だ。
民泊の儲けで空室のスペック向上
川口誠さん(仮名・35歳)は会社員から専業大家を経て、現在は賃貸と民泊のハイブリッド経営を行っている。賃貸業を始めたきっかけは2013年、2棟の賃貸アパートと隣接する駐車場を相続したことだ。当時の勤務先は副業禁止。迷った末、退職して「専業大家」の道を進むことを決める。
相続したのは神奈川県川崎市の、当時築24年の木造アパート。そのうち1棟は、6部屋中3部屋が長く空いていた。内装や畳は相当に年季が入っており、入居者獲得にはかなりのリフォームをするか、家賃の値下げが必要だった。そこで思いついたのが民泊だ。14年夏、川口さんは空室3室のうち角の1室を民泊用に貸すことにした。
当初の狙いは、儲けよりも今後の賃貸経営に生かす経験を積むこと。立地は新宿から小田急線で30分前後、駅から徒歩12分と、外国人観光客にとっての利便性は高くない。こうした場所の宿泊需要や外国人の部屋の使い方の特徴など、データを集めたかった。
掃除は自分で行い、寝具や備品は自宅で余ったものを活用。冷蔵庫と電子レンジは (写真右)、地元の人から中古品を安く買えるサイトを使い、各々1000円で調達
データ収集が主目的だったので、準備は極力、お金を掛けずに済ませた。料金は1泊2500~3200円に設定。掃除や寝具の洗濯は自分でこなす。ただしゲストとのやり取りは語学堪能な友人に任せ、収入の3割を渡している。
開始から約1年。15カ月分の収入は約62万円(友人に3割支払い後)、1カ月当たり4万円以上だ。民泊向けに貸し出した部屋の想定家賃は月6・5万円だが、空室が続くことを考えれば、まずまずの成績だ。「立地はいまひとつでも、駐車場無料を打ち出したことで、車を使う人の需要を取り込めたのではないか」と考えている。
家賃を下げずに新規入居者を獲得!
川口さんはこの62万円を元手に備品の家具や家電を購入。今度は「家具と家電付き」を売り文句に、通常の賃貸の入居者募集に力を入れた。結果、家賃を下げずに新規入居者を獲得できた。
現在は別の部屋で、主に日本人向けに民泊受け入れを続けている。日本人でも出張や一時帰国などの需要はあるという。当面は民泊と賃貸のハイブリッド戦略で、賃貸経営の収益底上げを狙う方針だ。
(『日経マネー』2016年5月号の記事を再構成しました)
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