空き家や自宅の誰も使っていない部屋を活用してお小遣いを稼ぐ。そんな新しい不動産の使い方を実現できるのが、人気急上昇中の「民泊」だ。儲けたい、楽しみたい、その目的はいろいろ。民泊の今を様々な角度から、2回にわたって紹介する。
(記事の最後に1万円の商品券が10名様など計51名にプレゼントが当たるアンケートの案内があります)
「予定を超える受講希望があったため、会場を変更します」。2月のある土曜日、東京都内で開催された「民泊セミナー」の申込者には、こんなメールが届いた。
「民泊」が盛り上がっている。民泊とは、一般住宅の部屋を旅行者などの宿泊向けに有料で貸し出すこと。訪日外国人の増加によるホテルの部屋不足を背景に、民泊の利用者数が急速に伸びている。
件のセミナーでも、熱心にメモを取る参加者からは、「民泊用の物件を探すにはどうすればいいか」「今後の規制緩和の見通しは?」といった質問が相次いだ。
民泊では部屋を貸す人をホスト、借りる人をゲストと呼ぶ。両者のニーズをネット上で仲介するのが、「プラットフォーマー」と呼ばれる事業者だ(上図)。
そのプラットフォーマーの世界最大手が、米国に本社のあるAirbnb(エアビーアンドビー)だ。同社の公開資料によると、2015年夏に同社サービスを利用した旅行者は世界で約1700万人。圧倒的シェアを誇り、巷では「民泊をする」の意味で「エアビーする」と使われることさえある。
世界では民泊ユーザーが 増えている
出所:Airbnb
さらに同社の資料によると、日本では部屋を貸し出すホスト数が10年以降、毎年2倍以上のペースで増加。15年6月までの直近1年間で、ホストとして部屋を貸し出した人は5000人以上、約52万人の訪日客が利用している。また、日本のホストがAirbnbを通して得た収入は、1人当たり年間平均96万円弱だという。
早稲田大学の研究チームは、この1年間におけるAirbnbの経済波及効果を年間2000億円以上、雇用創出効果を同約2万人以上と分析している。
空き部屋があれば誰でも始められる
「民泊の魅力の一つは少ない費用で始められること」と話すのはAirbnb総合研究会・代表の阿部ヨシカズさんだ。「貸す部屋は空き家や賃貸アパートの一室の他、現在住む自宅の一部を使う方法もある。寝具など部屋の備品は手持ちのものでも大丈夫。お風呂もエアコンもなし、和式トイレの古い畳の部屋でも、民泊ではそれなりのニーズがある」と言う。
阿部ヨシカズさん
Airbnb総合研究会 代表 民泊プロデューサー

民泊を行う大家さん向け情報サイトを運営し、メルマガでも定期的に情報発信を行う。2016年初出版の『Airbnb入門ガイド』では初心者向けに分かりやすくノウハウを解説。
http://airbnb-info.com/
民泊の実態など研究を進めていいる、マンション管理士の飯田勝啓さんによると、「現在、民泊で最も多いパターンは、賃借した部屋をゲストに貸す方法」という。いわゆる「又貸し」だ。通常、家賃収入を得る賃貸経営をするには、物件入手に数百万~数千万円の初期投資が必要。だが又貸しだと主な初期投資は賃貸契約時に払う敷金・礼金程度で済む。この手軽さが、民泊人気を盛り上げている。
民泊でどれだけ稼げるのだろうか。飯田さんはかつて民泊物件に泊まったことがあり、その料金は1泊8000円。そして、たまたま同じ建物内の同じ間取りの部屋が、管理費込み7万5000円で賃貸に出されていた。この実例を基に、編集部が試算したのが下図の例だ。
「1~2月の寒い時期は、民泊利用は年間で最も低水準」(阿部さん)という情報と、右下図の2月の東京23区の平均実績を参考に、稼働率は約50%(利用者が月に15日)と想定。試算では収入は月12万円になる。ここから毎月の主な経費に当たる家賃7万5000円を引いた4万5000円が、月々手元に残る利益だ。
初期投資額を加味した初年度の収支はどうか。賃貸の契約時に掛かる費用や家具などの合計を約45万円とすると、年間の純利益は9万円。順調なら1年足らずで初期投資額を回収できる。上手く運営すれば、それなりに旨みがあるビジネスモデルといえそうだ。
無断転貸や規約違反はトラブルの原因に
ただし心配の種もある。一部から民泊の実態は旅館業であり、許可を得ないと旅館業法に違反する可能性があると指摘されている点だ。料金を取って宿泊者を泊めるには、本来、自治体の許可が必要。許可を得るには、宿泊施設として必要な設備や衛生管理の要件を満たす必要がある。政府は東京五輪を見据え、訪日外国人の宿泊先を確保するために民泊の規制緩和を打ち出しているが、法改正にまでは至っていない。
旅館のような規模で複数の部屋を民泊向けに貸し、近隣からの苦情を放置していた悪質な事例では、書類送検されるケースも出ている。
前述の又貸しスタイルでは、大家の許可を得ていない事例が目立つ点も気になる。飯田さんが民泊で泊まったマンションも「転貸借不可」の賃貸物件だった。
「利用者が出す騒音や、ゴミの捨て方について近隣住民が管理会社や大家に苦情を寄せ、又貸しが露見することもある」(阿部さん)。発覚すれば、契約違反を理由に退去を迫られるリスクが高い。
自己所有の物件でも、マンション管理組合が定める規約に違反していれば、民泊を行うことは難しい。「民泊禁止など専有部分の用途に制限が設けられていないか、事前の管理規約の確認は必ずしてほしい」(飯田さん)。
国家戦略特区で自治体公認の民泊
法的問題を現時点でクリアできるのが、政府の国家戦略特別区域内で営む自治体公認の民泊だ。現在、条例に基づき民泊の運営が認められる自治体は、東京都大田区、そして大阪市と大阪府(大田区以外は施行前)だ。
大田区では宿泊旅行サイトの運営会社「とまれる」が、全国初の民泊運営事業者として認定され、2月に民泊仲介サイト「STAY JAPAN」を開設した。同サイトに民泊物件を登録するには大田区の認可が必要で、3月上旬時点で登録されているのは同社運営物件含め3件に限られている。なお特区の定めの中で運営される民泊は、最低でも滞在が6泊7日以上という条件がある。
とまれるでは、田舎の民家に泊まり農業を体験できる「体験型民泊」も支援。同社運営の「とまりーな」で情報提供を行う。利用者が増えれば、地方を中心に増加する空き家対策にも貢献できそうだ。
現在、3物件が大田区公認民泊物件として登録されている。うち2件はとまれ る社が運営。写真右はマンションの1室。左は一軒家タイプ。マンションでは 美容に役立つアメニティが充実
体験型民泊で紹介される「駒木 の家」(青森県)の例。薪割り体 験などができる
ホスト業務全般を代行する会社も
最近では、ゲストとやり取りする時間を作りづらい人や、英会話が苦手な人などに向け、ホストの役割全般をサポートする事業者が続々と登場している。
例えば運営代行会社のリーウェイズやファミネクトなどは、ゲストとの通信、緊急対応などの一連の運営作業を宿泊料金の2割で引き受ける。リーウェイズは、ホストの自己物件を対象にサービスを提供。事前に問題なく運営できる物件かどうか確認を行い、トラブル防止に努める。ファミネクトは、転貸借が認められる賃貸用不動産の紹介も行っている。手間をかけずに安心して運営するために、専門業者を頼るのも一案だ。
リノベーションで物件を見栄えよくし、稼働率を高める方法もある。写真はファ ミネクトの例。2室30㎡のクロスの張り 替えを行い、施工代金は約8万円
Airbnb総合研究会の阿部さんは、民泊の今後について「厚生労働省は、自宅の一部をシェアする形なら、民泊を旅館業法の対象外とする方針だ。民泊は今後さらに普及していくだろう」と期待する。そうした中で、ゲスト獲得の競争激化も指摘。運営を成功させるには、「ゲストに喜んでもらえる努力が必要」と言う。
マンション管理士の飯田さんは、「社会に役立つ仕組みとして発展していくために、ホスト、ゲスト共にルールを守り、互いに気遣うことが大事」と呼びかけている。
「民泊」体験記
東京都内でビジネスホテルの予約を取ろうとしたが、どこも満室。そこで飯田勝啓さんは「民泊」の利用を思いついた。場所は新宿に近いJRの主要駅から徒歩1分の好立地だ。その生のコメントをお伝えしよう。
ロックなしのドアにびっくり
施錠なしのドアから入り、入室後は机の上にあった鍵を使って出入 りする
民泊させてもらったマンションはオートロック式だった。「入れるのか?」と不安を抱いたが、あらかじめメールで教わっていたセキュリティ解除の暗証番号を玄関脇のパネルでタッチするとオートロックの扉が開き、すんなりとマンション内に入ることができた。大きなスーツケースを引きずりながら狭い階段を進む。すれ違う居住者には怪訝な顔をされ、少々バツが悪かった。
予約した部屋に到着してドアノブを回すと、鍵はかかっておらず、そのまま室内に入ることができた。初めて「無人チェックイン」を味わったが、どこか不思議な感じだ。部屋の鍵は室内の机の上に置かれ、チェックイン後はこれを使って出入りする。
自宅感覚で意外に快適?!
部屋は広さ23m2程度のごく普通のワンルームマンションだ。東京都内で安いビジネスホテルを選ぶと、部屋は非常に狭くて居心地が悪い。だがこの民泊の部屋はゆったりとしており、自分の部屋に戻ったような感覚になれる。生活必需品は一通り揃っており、ネット環境も整っている。長期滞在にも十分使えそうだ。
気になったのは、部屋の使い方の説明がなかったこと。予約時の注意事項は「禁煙」と「土足禁止」の2点だけ。ゴミ出しルールなどの記載がなく、結局は室内にゴミを残したままチェックアウトさせてもらった。
マンションでは騒音やゴミ出しの不徹底によるトラブルが発生していると聞く。ホスト側は、滞在時のルールを丁寧に伝え、防止に努めていくことが大事だと思う。
(『日経マネー』2016年5月号の記事を再構成しました)
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