これは私も実践していたことですが、トップアスリートになればなるほど、走る前のウォーミングアップや補強運動、アフターケアを欠かしません。例えば、1つの試合に向けて、3カ月以上の練習メニューを入念に組み立て、段階を踏んでから厳しいトレーニングに取り組み、本番で結果が出るように調整していきます。

 シューズだけでもジョギング用、持久走用、レース用の3種を用意し、最初からソールが薄くて軽いレース用シューズを履くことはありません。足腰を鍛え、距離をこなし、スピードと持久力を鍛えてはじめて、レース用のシューズを履いているのです。

 そんなアスリートの地道な努力を知らない市民ランナーは、段階を踏まずにいきなりハードな練習をまねたり、レース用のシューズを履いたりする場合があります。それはケガに結びつく最も危険な行為なのです。

“なんちゃってアスリート”が危ない

日本のランナーは無理をし過ぎ。サポーターやテーピングをした痛々しい姿で走る人は、海外ではほとんど見かけない。(写真:竹井俊晴)
日本のランナーは無理をし過ぎ。サポーターやテーピングをした痛々しい姿で走る人は、海外ではほとんど見かけない。(写真:竹井俊晴)

 こうした状況が発生するのは、市民ランナーもアスリートと同じ大会に出場できるという、昨今の大会事情にも起因していると思います。例えば、ランニングは、「ジョガー」「ランナー」「アスリート」という3つのレベルに分類できます。ジョガーはゆっくり景色を楽しみながら走るレベルで、ランナーは大会の順位やタイム設定などにもこだわり始めたレベル、そしてアスリートは世界の舞台を目指すレベルを指します。

 かつての主要なマラソン大会では、アスリートしか出場できないなど、一般ランナーとの線引きが明確でした。しかし最近は、大阪マラソンや東京マラソンなどの大規模な大会でも、ジョガーやランナーがアスリートと同じスタート地点に立てるので、どうしてもテンションが上がります。

 そこで、最も勘違いをしがちなのが、ランニングクラブなどに所属し、自身の限界に挑むことを勲章のように思っている“なんちゃってアスリート”。実力が伴っていないのに、同じ舞台に立つことで気持ちがアスリートになるため、記録や順位にこだわってむちゃをし、ケガをしやすいのです。

 既にランニングを始めている人は、痛みがある時は「絶対に走らない」というルールを決めましょう。私も実践して大変役立ちましたが、人体の仕組みについて解説した本を読んで自身の体について勉強することをお薦めします。すると、痛みがある部位を把握でき、自身で意識するようになるため、予防にもつながるはずです。

 初回は、ランニングを長く楽しんでもらうために、あえて厳しめのメッセージを発信しました。次回はランニングを健康的に継続するためのステップをもう少し深く掘り下げ、具体的なポイントなどをご紹介したいと思っています。

(まとめ:高島三幸=ライター)
有森裕子(ありもり ゆうこ)さん
元マラソンランナー
有森裕子(ありもり ゆうこ)さん 1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

この記事は日経Gooday 2014年10月12日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

この記事はシリーズ「「一に健康、二に仕事」 from 日経Gooday」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。