五郎丸選手やイチロー選手も実践するルーティンの効果

 ラグビー日本代表の五郎丸歩選手もまた、独自のパフォーマンスによって結果を出したとして注目を集めた人物。キック前に行われる、いわゆる “五郎丸ポーズ” は大きな話題となった。

 しかしこのポーズも、スポーツ心理学者のもとで調整を重ね、メンタル面強化のために構築されたルーティンのほんの一部。「重要なのはポーズをとることではなく、ポーズも含めた一連のルーティンを日々積み重ねること。こうしたルーティンが功を奏し、練習の成果をコンスタントに発揮できるのでしょう」(高妻さん)。

 実際に五郎丸選手が行っているルーティンは、①ボールを2回転させてセットする②手を合わせてボールが飛んでいく様子をイメージする(五郎丸ポーズに該当)③後ろに3歩④左に2歩⑤助走8歩でボールを蹴る、という内容だといわれている。

 この流れを毎日の練習でも繰り返しているからこそ、試合のプレッシャーの中でも普段通りの心身を保ち、結果を出すことができるのだ。

 「キック前の行動をパターン化することで、一定のリズムが生まれる。そのリズムを毎回体感していれば、緊張状態にあっても意識をリズムへと集中させられるはず。そうすれば、ネガティブ思考などの邪念から解放されて“いつもの力”を出せるから、キックの精度も上がるのです」と高妻さん。

 これは、近年Googleなど多くの企業でも実践されている「マインドフルネス」という瞑想法にも通じている(マインドフルネスの詳細は「ジョブズ、琴奨菊も実践!「マインドフルネス」ってどんな効果があるの?」をご覧ください)。「自分が今やっていることや、自分の今の状態に意識を集中させることで、心の柔軟性を保つことができます。そうすれば、今の自分にとって何が重要なのかを理解し、集中力を高めて的確なパフォーマンスができるようになるのです」(高妻さん)。

究極は生活のあらゆる行動のルーティン化!?

イチロー選手の毎朝カレーを食べる習慣は、ルーティンの究極形ともいえる(©adirek kata 123-rf)
イチロー選手の毎朝カレーを食べる習慣は、ルーティンの究極形ともいえる(©adirek kata 123-rf)

 ルーティンの究極の形は、勝負前に行う一連の動作だけではなく、24時間を通した一連のライフスタイルにおいて実践することかもしれない。

 野球のイチロー選手が、毎日同じようにカレーを食べ続けていたエピソードは有名だ。彼は試合前や練習前のプログラムだけでなく、食事をはじめとする生活のあらゆる行動をルーティン化しているといわれている。

 まさに、一事が万事。絶え間ないルーティンによって心身を安定させれば、どんな窮地でも“いつもの力”を発揮できるということを覚えておこう。

高妻容一(こうづま よういち)さん
東海大学体育学部教授
高妻容一(こうづま よういち)さん

1955年宮崎県生まれ。福岡大学体育学部体育学科卒業、中京大学大学院修士課程体育学研究科修了後、1985年フロリダ州立大学博士課程運動学習・スポーツ心理学専攻に4年半留学。1993年州立フロリダ大学へ1年間の研究留学。近畿大学教養部を経て、2000年より東海大学体育学部へ。現在、教授。2015年にも半年間、米国へ研究留学(IMGアカデミー、オリンピックトレーニングセンター、フロリダ大学、大リーグのチーム等)。1985~2001年日本オリンピック委員会のメンタルマネジメント研究班員。1994年から日本メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会をスタートし、事務局・代表を務める。東海大学スポーツサポート研究会メンタルトレーニング部門担当。

この記事は日経Gooday 2016年5月31日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

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