脚がむずむずして眠れない…それは病気です!
20~50人に1人が発症、うつや高血圧につながる恐れも
仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。
布団に入っても、脚がむずむずして眠れなかったことは?(©Rommel Canlas-123RF)
夜、布団に入っても、脚がむずむずして眠れなかった、という経験はないだろうか? 実はそれ、「むずむず脚症候群」という睡眠障害につながる病気とされ、日本では20~50人に一人が発症すると推定されている。一見大したことがなさそうだが、ひどい人は深夜まで何時間も症状が続くというからバカにできない。睡眠時間が削られることで疲労感や眠気が残れば、日常生活に支障を来すのは必至。うつ病や不安障害につながることもあり、高血圧のリスクも高くなるという。
「18世紀から症状は知られていましたが、1945年にスウェーデンの神経学者カール・エクボムによって『レストレスレッグス・シンドローム』(Restless Legs Syndrome)と名付けられました」と話すのは、睡眠総合ケアクリニック代々木(東京都渋谷区)の井上雄一理事長だ。
直訳すれば「落ち着かない脚症候群」。それを日本では、むずむず脚症候群と呼んでいる。
脚の奥がむずむずして、じっと寝られない
「この病気には4つの特徴があります」と井上理事長は続ける。
① 脚に不快な感覚が起きて動かしたくなる。
② 座っているときや横になっているときなど、安静時に起こる。
③ 歩くなど、脚を動かすと楽になる。
④ 症状は夜間のみ、または夜になると悪化する。
一番の特徴は「脚に不快な感覚が起こり、動かさずにはいられなくなる」こと。その不快感を「むずむず」と表現する人が多いわけだが、他にも「痛い、かゆい、チリチリする、虫がはっているような、と人によっていろいろな表現があります」と井上理事長。また、表面ではなく、筋肉の内部など奥のほうに違和感が出ることも共通している。症状を感じる部位は、足首から下、ふくらはぎ、太もも、と脚ならどこでも起こりうる。必ずしも脚だけとは限らず、井上理事長によると、「腹部、腕、首や顔に起こる人も15%ほどいる」という。
実は決して珍しい病気ではなく、欧米では5~10%もの人が症状を訴えている。アジア人はそれよりも少なく2~4%と言われているが、どの国でも女性が男性の1.5倍ほど多い。つまり、患者10人のうち、男性4人、女性6人という比率になる。
「臨床現場では50代以上の高齢者が目立ちますが、アジア人の疫学調査では年齢による差は見られなかった。子どもに起こることも珍しくありません」(井上理事長)
腎不全、パーキンソン病、鉄欠乏性貧血、リウマチ、妊婦の人は特になりやすいことが知られている。抗うつ薬の副作用で起こることもあるという。
脚がむずむずする原因は?
なぜ、脚の奥に不快感が起こるのだろう。「今でも原因ははっきりと分かっていません。原因は一つには絞れないと考えられています」と井上理事長は話す。
考えられる原因のうち、最も有力なのはドーパミン仮説。ドーパミンとは脳で分泌される重要な神経伝達物質。このドーパミンを伝える機能がおかしくなり、普段は感じない感覚が生まれるのではないか、というものだ。実際、ドーパミンの機能を高める薬を服用するとよく効くことが多いという。
次に鉄欠乏仮説。「鉄はドーパミンの合成にも、ドーパミン受容体の機能にも関係するので、不足するとドーパミンの機能がうまく働かなくなります」と井上理事長。実際、鉄欠乏性貧血の人はむずむず脚症候群になりやすいという。
遺伝子仮説というのもある。この病気は遺伝する確率が高いのだ。
井上理事長は「特に45歳以下で発症する人の場合、3割以上は家族にむずむず脚症候群の症状を持つ人がいる。最近は大規模な遺伝子解析も進められ、いくつかの原因の候補となる遺伝子も見つかっています」と話す。
ドーパミンの機能を高める薬がよく効く
原因がはっきり解明されていないといっても、必要以上に恐れることはない。むずむず脚症候群は「薬物療法によって85~90%の人が改善します」と井上理事長。
現在、国内で保険が適用されている薬は3種類ある。
まず、「プラミペキソール」と「ロチゴチン」。これらはドーパミン受容体の機能を高める薬(ドーパミン作動薬)であり、前に触れたように、これらがよく効くことがドーパミン仮説の裏付けになっている。もう一つは「ガバペンチンエナカルビル」という興奮系の神経を鎮める薬だ。ちなみに、すべて処方せんがないと購入できない。
メカニズムははっきり分からないが、カフェイン、タバコ、アルコールの摂取によって症状が悪化することが多い。夕方以降、これらは避けたほうが無難だろう。
運動はしたほうがいいが、「筋肉に疲れが残ると症状がひどくなりやすい。運動後は脚のストレッチやマッサージをしっかりやっておくことをお勧めします」と井上理事長はアドバイスする。
1分間に2~3回足首が動く
むずむず脚症候群になると、半分以上の人が「周期性四肢運動」を起こすという。「睡眠中に何回も足首や膝が反り返るように動くんです。だいたい20~30秒に1回、つまり1分間に2~3回のペースで動きます」と井上理事長。
重症度の判定法として国際的に使われているのがIRLS(むずむず脚症候群重症度スケール)だ。これは10項目の質問に4段階で答える40点満点の質問票。10点以下が軽症、20点以下が中等症、それ以上が重症とされる。
IRLS(むずむず脚症候群重症度スケール)
10項目の質問に4段階で答える40点満点の質問票。10点以下が軽症、20点以下が中等症、30点以下が重症、それ以上が最重症とされる。(質問票のPDFファイルは
こちらからダウンロードできます)
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10点以上になったら、医療機関に行くことも考えたほうが良い。
「放置しておくと徐々に悪化していくことが多い。週2回以上起こるようになると、生活の質にも影響してきます」と井上理事長は注意する。
神経内科や精神科でもいいが、できれば睡眠障害の専門医療機関がベストだ。日本睡眠学会のサイト(http://www.jssr.jp)などを参考にするといいだろう。
井上雄一(いのうえ ゆういち)さん
医療法人社団絹和会 睡眠総合ケアクリニック代々木 理事長

1956年生まれ。東京医科大学卒業。鳥取大学医学部講師、順天堂大学医学部講師を経て、2003年に代々木睡眠クリニックを開設。11年より現職。東京医科大学睡眠学講座教授。日本睡眠学会理事。著書に『脚がむずむずしたら読む本』(メディカルトリビューン)、『高齢者の睡眠を守る』(ワールドプランニング)など。
この記事は日経Gooday 2016年4月20日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
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