東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利・運動科学研究室長の著書『やってはいけないウォーキング』(SB新書)が、発売後3カ月で7万部を突破するなど、反響を呼んでいる。その内容は、これまで多くの人が健康にいいと信じて疑わなかった「1日1万歩」が、実は寿命を縮める可能性もあるという衝撃的なもの。新聞や雑誌などでも注目を浴びている「健康で長生きするためのウォーキング法」を、青栁さんに直接うかがった。今回から2回に分けてお届けする。

「1万歩を続けさえすれば大丈夫」「歩くほど健康になる」
というわけではない

「やってはいけないウォーキング」というインパクトの大きいタイトルですが、これまで推進されてきた“1日1万歩”は、今すぐやめたほうがよいのでしょうか?

「やってはいけないウォーキング」の著者、青栁幸利さん
「やってはいけないウォーキング」の著者、青栁幸利さん

 いいえ。1日1万歩が悪い、間違っているというわけではありません。これまで地道にウォーキングを続けてきた方はそのまま続けて大丈夫です。

 ただ、著書の中でも1日1万歩以上歩いていた旅館の女将さんが骨粗しょう症になった話に触れていますが、いくら毎日1万歩以上歩いても、やり方が悪ければ何の効果も期待できませんし、歩き過ぎるとかえってそれが病気を引き起こすこともあります。

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 着物を着た旅館の女将さんの場合、足を上げず、小股で静かに歩く毎日のため、運動の強度が骨密度を保つのに十分ではなかったことや、館内で過ごすことが多いため1日に浴びる紫外線量が不足したことが、骨が弱くなることにつながったと考えられます。

 そうした例も含め、私が著書を通じて伝えたかったのは、「1万歩を実現できてさえいれば大丈夫」と過信したり、「歩けば歩くほど体にいい」と間違った思い込みをするのはよくないということです。

ウォーキングはすればするほど健康になると思っていましたが、そういうわけではないんですね?

 そうなんです。意外に知られていませんが、実は、歩き過ぎも含め、運動のし過ぎは、健康効果がないどころか、免疫力を下げてしまうリスクがあります。

 象徴的な例を挙げると、私はカナダに留学しているとき、オーストラリアのメルボルン大学で水泳のナショナルチームの選手の血液検査を行ったことがあります。あのイアン・ソープが活躍していた時代です。検査の結果、世界レベルの水泳選手は、持久力や筋力、ヘモグロビンの数などは素晴らしい結果にもかかわらず、ハードなトレーニングが原因で免疫力が落ちており、風邪などの病気にかかりやすいことが分かりました。

 スポーツをやり過ぎると病気予防はあまりうまくいかないということは、昔から実験的にも解明されています。

40歳を超えたらジョギングからウォーキングへ移行すべき!?

一般の人の“やり過ぎ”に目安はありますか?

 たとえばウォーキングの場合、どれだけ歩いても疲れていなければやり過ぎではありません。歩き終わったあとや翌日に疲れが残っている感覚があれば、それはやり過ぎでしょう。疲労を感じるということは、つまり免疫機能が下がっているということなので無理をするのはよくありません。

 また、若いときには軽く1日1万歩をこなせてきた人でも、加齢とともに体が悲鳴を上げ始めることを覚えておいてください。

 悲鳴を上げる場所は、ずばり“関節”。年をとっても筋肉や体力をつけることは可能ですが、関節は鍛えることができません。体力はあっても膝関節がガクガクしたり、膝がすり減ったりして痛みが出やすくなるのです。それはどこかで体が無理をしている証拠なので、そうした体のサインを見逃さないようにしましょう。

 人は痛みが出た瞬間から体を動かすのがおっくうになります。それをきっかけに歩くのをやめ、急激に体力を落とす人も少なくありません。

 ですから私は40歳を超えたらジョギングをしていた方はウォーキングへ移行し、1日1万歩いていた方は歩数を減らすとともに、生活の中に「中強度の運動」を組み込むことが長生きするためには必要だと考えています。

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