「関節に力が入らず頭も回らない感じで、演奏会も中止しました」

そのあと、腸閉塞の手術を受けられたのですね。

中村 ええ。17日に演奏を済ませて、19日に腹腔鏡下手術を受けました。担当してくださったのは、腹腔鏡下手術では日本の第一人者という方で、とても素朴な感じのいい先生でした。この先生になら命を預けてもいいなと思って、素直に手術を受けました。

 手術自体は無事成功したのですが、このときにがんが見つかって、ステージIIだというんです。「がんが腹膜にいっぱい散らばっていて、全部は取り切れませんでした。だから、今後、完治はしません。悪化させたり広げたりしないようにして、1日でも長く元気でいるように心がけてください」といった話をされました。

 それで、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシル)という飲み薬の抗がん剤で治療することになりました。2カ月くらいは素直に飲んでいたんですが、あるとき関節に力が入らない感じになってしまって、ピアノも弾けない状態になりました。さらに困ったのは、頭が回らなくなってきたことですね。

 演奏というのは、弾き始めるときに、どう弾くのか最後まで見通してビジョンを描くことが必要なんです。ところがそのときは、「次の音なんだったっけ」みたいになってしまって。仕方なく演奏会をキャンセルしてしまったこともありました。

「これはもう観念するしかない」

その後、治療はどうなりましたか。

中村 仮にがんが治っても、ピアノが弾けなくなるのは困ると思っていたら、まわりの方が、いろいろな治療法を勧めてくださいました。それでなんでも試してみようと思って、去年の夏の終わりぐらいから、免疫療法(免疫細胞療法)をやったんです。でも、結局効かなくて、しかも雑菌が入って、がんと関係ないようなところが痛くなってきてしまいました。

 年末になって、さすがの私も困っていたら、お友達が「後輩がお医者様になってB病院にいるから、電話して聞いてあげるわ」と言ってくれました。すぐに連絡がついて「ともかくいらっしゃい」と言われて、年が明けてすぐにB病院に行ったんです。

 紹介された先生は胃がんが専門だったんですけど、いろいろ話を聞いて、「もしあなたが自分の家族だったら、抗がん剤を薦めます」と言われました。それで、これはもう観念するしかないと思って、B病院の消化器化学療法科の先生に診ていただくことになりました。

 それで1月27日に抗がん剤治療を始めたわけですが、副作用がどうでるかわからないので、しばらくピアノは休業することにしました。また演奏会をキャンセルするようなことになったら、困りますから。コンサートを楽しみにしていた方々には申し訳なかったのですが、正式に大腸がんになったことをアナウンスをして、「当分治療に専念するので演奏会はしません」ということにしたんです。

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