探知犬や線虫でがんを発見

 がんにもにおいがあるという。

 「例えば、手術で患部を開けたとたんに、がん特有のにおいがすると言う外科医がいます。がん病棟に行くと特殊なにおいがすると話す医師もいます。また、“新緑のにおい”“化学調味料のにおい”“硫黄のようなにおい”などと表現する人も。実際、がんにはにおいがあり、それを診断に役立てようという動きもあります」(外﨑さん)

 吐く息や血液、尿のにおいを嗅ぐことで、がんがあるかどうかを高確率に嗅ぎ分けられる「がん探知犬」。この探知犬をがんの検査に活用しようという試みもある。においを感じる嗅細胞は、人間の鼻の中に約500万個あるが、犬の場合はそれよりもはるかに多い約2億個もあるという。なかでも、がん探知犬は非常に優れた鼻を持つ嗅覚の超エリート。

 以前、探知犬の研究に携わっていた外﨑さんは、「人の鼻では分からないような、ごく低い濃度でも、探知犬は100%近い確率でがんかどうかを嗅ぎ分けた。この研究から、がんには特定のにおいがあることが分かった」と話す。そのにおい物質が何なのか、まだ特定されるには至っていないが、外﨑さんは「がん細胞が増殖する際に発生する一種の化学物質のにおいではないか」とにらんでいる。

 探知犬に続き、体長1ミリほどの「線虫」もがんのにおいを嗅ぎ分けられることが、九州大学の研究で分かってきた。線虫はがんのにおいに引き寄せられる性質があり、1滴の尿があれば95.8%の確率でがんを診断できるという。しかも、従来のがん検診では見つけられなかった早期がんを発見できる可能性もあるというから、スゴイ!

 体が発するにおいは、まさしく体調のバロメータ―。外﨑さんは最後に、こんな助言をしてくれた。「推理小説などで、怪しい人物のことを『アイツがにおう』などと表現しますが、体も同じ。『なんとなくにおう』は、体調が怪しいサインと捉え、病気の早期発見や健康管理に生かしてほしいですね」。

外﨑肇一(とのさき けいいち)さん
嗅覚研究所 代表
外﨑肇一(とのさき けいいち)さん 東京教育大学大学院修了。理学博士。専門は嗅覚生理学。フロリダ州立大学客員教授、岐阜大学大学院教授、明海大学歯学部教授などを経て、現在は嗅覚研究所代表。文教大学講師、神奈川県立看護専門学校講師、社団法人次世代センサー協議会委員兼監事なども務める。がん探知犬研究のパイオニアとして多くのテレビ番組にも出演。著書は『マンガでわかる香りとフェロモンの疑問50』(サイエンス・アイ新書)、『ニオイをかげば病気がわかる』(講談社+α新書)など。

この記事は日経Gooday 2015年8月18日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。