冷えるとおしっこが近くなるのはどうして?
「行きたくなったら5分我慢」で、過敏な膀胱をトレーニング
聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
夏の冷房で体が冷え、トイレに行く頻度が増える人がけっこう多い。(©Geoff Leighly-123RF)
いよいよ夏本番。暑くなりましたね。
ただ、夏が無条件に「暑い」ものだったのはもはや昔話。最近はむしろ、「夏=冷えの季節」と感じている人も多いだろう。オフィスや電車の冷房設備が本格的に働き出すこの時期は、冷房で体を冷やして体調を崩す人がぐっと増える。
その典型的な症状が、「おしっこが近くなる」こと。体が冷えると尿意が込み上げて、トイレに行く頻度が増えるという人が、けっこう多い。中には、我慢がきかなくなって仕事にも支障が出るとか、怖くて電車に乗れないといったケースもある。
「冷えでおしっこが近くなる原因は、大きく2つのパターンがあります。尿量が増えるタイプと、尿が増えていないのに我慢できなくなるタイプです」。女性医療クリニックLUNAグループ理事長で、泌尿器科が専門の関口由紀さんは、こう話を切り出した。
冷房環境では水分の取りすぎに注意
尿量が増えるのは、水分摂取量が増えたため。
夏は、何かと飲み物を口にする機会が多い。もし暑い場所で過ごすなら、汗で失われる水分を補うための水分摂取は重要だが、体が冷えるほど冷房が利いている環境にいる場合は、汗がほとんど出ない。にもかかわらず水分をたくさん取ると、おしっこの量が増えてしまう。それでトイレが近くなるというわけだ。
もっともこの場合、健康上の問題は特にない。対策は、水分摂取量を減らせばいいだけだ。
問題は、尿量が増えていないのにおしっこが近くなるタイプ。しょっちゅうトイレに行きたくなるけれど、いざ行くとそれほど量が出ない、という状況が繰り返される。
「冷え刺激に対して膀胱が過敏に反応してしまい、おしっこがあまり溜まっていないのに出したくなるのです」と関口さんはいう。
この反応は個人差が大きい。敏感な人もいれば、何も感じない人もいる。
「症状が出やすいのは、いってみれば、体質的に膀胱が敏感な人。そういう人は、冷えだけでなく、疲れがたまるとか、強いストレスを感じたときにも、おしっこが近くなることが多い。体調が崩れると、膀胱が強く反応するのです」(関口さん)
膀胱が過敏になる「過活動膀胱」と「間質性膀胱炎」
そんな“敏感な膀胱”の背後に、病気が隠れているケースもある。「最も可能性が高いのは、過活動膀胱です」と関口さん。
過活動膀胱は、その名の通り、膀胱が過剰に活動してしまう病気。年齢とともに増える傾向がある。原因として、男性では前立腺肥大、女性では骨盤底筋群(骨盤の底を覆う筋肉群)の衰えが関与することが多いと考えられている。
膀胱は弾力性のある袋で、350~500mLぐらいまでおしっこをためられる。通常、150~200mLほどたまった段階で、「初発尿意」という軽い尿意が湧くが、この時点ではまだ容量に余裕があり、さほど切羽詰まった感じにはならない。普通なら「まだ大丈夫」とやり過ごす程度の軽い尿意だ。
ところが過活動膀胱の人は、この段階で膀胱の筋肉に異常収縮が起き、強い尿意が湧く。突発的な尿意を我慢できず、尿もれが起きてしまうこともあるという。
「特に、冷えなどの刺激に過敏に反応して、強い尿意が起きるのが特徴的。冷たい水に触れたり、水音に刺激されて尿意が起きることもあります」(関口さん)
過活動膀胱はかなり頻度の高い病気で、「40歳以上では5~6人に1人ぐらいが、程度の差こそあれ、何らかのこういう症状を抱えています」(関口さん)。だれがなってもおかしくない病気だ。
もう一つ、間質性膀胱炎も考えられる。これは膀胱の粘膜が弱く、その下の間質と呼ばれる部分に慢性的に炎症が持続する病気で、原因はよく分かっていない。
「膀胱痛症候群とも呼ばれ、おしっこが100~150mLほどたまると、膀胱が重く、痛く感じられます。その感覚が不快なので、ちょっとたまったらすぐに出したくなる。それで頻尿になるのです」(関口さん)
この病気の患者は100人に1人ぐらいと見積もられており、過活動膀胱よりは少ないものの、やはりかなり頻度は高い。そしてこの症状も、冷えによって強まることが多いという。
つまり、“敏感な膀胱”の人は、「これら2つの病気のどちらかに、なりかかっている可能性があります」と関口さんは注意を促す。
出したくなったら「5分だけ我慢」
では、そういう人は、どんな対策をすればいいのだろう。「まずは、自分でできる対策に取り組むといいでしょう」と関口さんはいう。
それは、おしっこをしたくなった時に、ちょっとだけ我慢してみることだ。
これは「膀胱トレーニング」と呼ばれる練習。「頻尿気味の人は早め早めにトイレに行くクセがあり、それが膀胱を一層過敏にしています。少しだけ我慢して、尿意をいったんやり過ごす練習をするのです」(関口さん)。
最初は、尿意が起きてから5分、トイレに行くのを遅らせてみる。毎回やる必要はなく、無理のない範囲で実行すればいい。1週間ぐらいやって楽になってきたら、さらに5分遅らせる。こんな調子で少しずつ時間を伸ばしてみよう。
「骨盤底筋トレーニング」もぜひ行うといい。女性には特におすすめだ。「女性の尿トラブルには、骨盤底部の筋肉の衰えが必ず関わっています」(関口さん)。ここの筋肉を意識的に動かして鍛えることで、ほとんどの尿トラブルが改善できるという。
やり方は、肛門と膣を「キュッと締めては、ゆるめる動作」を何回か繰り返すこと。とりわけ、膀胱トレーニングでおしっこを我慢をしているときに行うと効果的だという。是非トライしてみよう。
尿トラブルを改善できる「骨盤底筋トレーニング」
[画像のクリックで拡大表示]
肛門と膣を「キュッと締めては、ゆるめる動作」(図の1~3)を2~3回繰り返す。
冷えを解消するのも大切。室内では上着を羽織る、首や足首を覆う、エアコンの温度を調節するなど、体を冷やさない工夫をしてみよう。食べ物も、冷たいものや生ものを避けること。
さらに、「頻尿の時は避けたほうがいい飲み物があります」と関口さん。コーヒーやお茶などカフェインを含むもの、柑橘系やトマトなどの酸味が強いジュース類は、膀胱を刺激したり、おしっこを増やす作用があるので、避けよう。
頻尿は、体の不調を知らせてくれるサイン
関口さんによると、こういった症状は、健康を保つうえでむしろ役に立つものだという。
「だれでも、体調が崩れたときによく出る“不調のサイン”がありますね。すぐお腹を壊すとか、口内炎ができるとか。冷えによる頻尿も、そんなサインの一種です。サインが出たときにきちんと体をいたわっていれば、長生きできるはずですよ」(関口さん)
なるほど、体が不調を知らせてくれるわけか。そう言われると、なんだかありがたい気持ちになってくる。
なお、ここで紹介した対策に取り組んでも症状が改善しない場合は、泌尿器科の診察を受けてみよう。過活動膀胱、間質性膀胱炎とも、薬による治療で改善が期待できる。
関口由紀(せきぐち ゆき)さん
女性医療クリニックLUNAグループ理事長

1989年山形大学医学部卒業。横浜市立大学医学部泌尿器科助手、横浜市立市民総合医療センター勤務などを経て、2007年横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学修了。客員教授となる。一方で、1994年より漢方の大家、丁宗鉄師に師事して漢方を学ぶ。2005年、横浜元町・女性医療クリニックLUNAを開設。施設の拡大とともに、現在は理事長として、世界標準の女性医療を目指す、新しい日本の女性医療の拠点作りを行っている。http://www.luna-clinic.jp
この記事は日経Gooday 2015年7月23日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
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