悩みの根源の「罪悪感」を癒やすためには?
最後にまとめをしたいと思います。第1回、第2回、そして今回のお話で、職場での息苦しさ、家庭での問題、すべての原因は、罪悪感だという話をお聞きしました。その罪悪感とは、自分を受け入れていない、認めていない、愛していないということだと思うんですね。
その通りだと思います。
では、自分をそのようにしてあげるには、どうすればよいのでしょうか?
これは、非常に難しいと思います。まず、自分を受け入れることは一人ではできません。自分で自分を受け入れようとしても、無駄。何がどうなっているのか、自分では分からないからね。必ず他者との繋がりが必要です。
例えば、マイケル・ジャクソンが、『We Are The World』という歌を作ったんですけど、実際に歌われたものは、マイケルが元々書いた歌詞と違うんです。
実際に歌われた歌詞は、「There’s a the choice we’re making=ここに我々が成そうとしている選択がある」。それが、アフリカ人のために寄付をするという選択、という意味なんですけど。
ところが、マイケルのデモ版にある元の歌詞は「There’s a chance we’re taking=私たちが掴もうとしているチャンスがある」なんです。
分かりますか? この違いのすごさが。
マイケルの詞は、「我々の生活を正しい方向に導くチャンスを掴もう、それは与える、ということだ」と言っているんです。
自分が持てあましている「本当に必要ではないもの」を、「本当に必要としている人に与える」という行為によって、何が本当に必要であるかが明らかになると私は解釈しました。詳しくは、自著『マイケル・ジャクソンの思想』(アルテスパブリッシング)に書いてあります。
つまり、「与える」という行為は、それを通じて、自分自身を受け入れるチャンスになるんです。本当に困っている人を助けることができたら、自分は自分を受け入れられるようになると思うんです。どんなに自己嫌悪を感じている人であっても。
罪悪感にさいなまれている人でも、そこから脱するヒントがここにある。
あると思う。与えること。助けること。社内ですごく困っている人を助けるでもいい。お客さんを助けるでもいい。家族を助けるでもいい。その時、自分自身の立場をほったらかしてやるとしたら、ものすごく大きな一歩になると思うんです。
これは、「助けることがよいとされているからやろう」ではダメなんです。これは結局、自分に対する言い訳になってしまうから。
自分がその時に助けたいと思った人に手をさしのべる。心からそう思っているかどうかがすごく大事なんです。
難しいですが、これが罪悪感から脱する一つの回答になると思います。
(写真:小野さやか、ヘアメイク:藤岡ちせ)
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東京大学東洋文化研究所 教授

この記事は日経Gooday 2016年6月10日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
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