Q
空腹時血糖が正常値なら、糖尿病は心配しなくていい?
A
いいえ。糖尿病の初期には、空腹時血糖値には異常が見られないことがある。こうした場合は、ヘモグロビン(Hb)A1cの数値によって糖尿病と疑われる場合もある。
空腹時血糖が126mg/dLを超えてなければ安心?(©Dmitry Lobanov-123RF)
職場健診では、糖尿病を早期発見する目的で「糖代謝」の検査が行われている。糖代謝の状態を調べるには、血液検査で「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」の数値を見るのが基本だ。
血糖値とは、脳や筋肉などのエネルギー源として使われる血液中のブドウ糖(=血糖)の濃度のこと。静脈血漿(けっしょう)1デシリットル(dL)に含まれるブドウ糖の重量(mg)で示される。
血液中のブドウ糖の量は食事によって変動するが、膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」というホルモンの働きによって、一定範囲内に保たれるようになっている。ところが、このインスリンの分泌量が少なかったり、分泌はされていても作用が不十分だったりすると、血液中のブドウ糖の量が多くなる。こうした高血糖の状態が慢性的に続く病気が「糖尿病」だ。
「糖尿病初期では、空腹時血糖は正常だが食後に高血糖を示す人も多い」
糖尿病を専門とする真山クリニック院長の真山享氏に、健康な人と糖尿病の人の血糖値の変動の違いを解説してもらった。
「食事前の血糖値は通常、110mg/dL未満に保たれています。食事をすると、30分程度で血糖値が上がり始め、90分程度でピークに達し、4時間程度経つと食事前の数値に戻ります。健康な人では、食後の血糖値のピークは最高140mg/dLほどで、食事前の血糖値から30%を超えて上がることはほとんどありません。一方、糖尿病の人は、病気の状態によって異なるため一概には言えませんが、食事前の血糖値は126mg/dL以上あり、食後のピークには200mg/dL以上になります。そして、その後もなかなか下がらず、高血糖の状態が続きます」
このように、血糖値は食事と関連して変動するため、職場健診では一般的に、最も安定しているといわれる「空腹時血糖」を調べる。職場健診の日に朝食や昼食を抜くよう指示されるのはこのためだ。ちなみに、食事の時間と関係なく血液検査をする場合の値は「随時血糖」と呼ばれる。
ただし、「糖尿病の初期では、空腹時血糖には異常がなく、食後に高血糖を示す人も多い」と、真山氏は話す。「糖尿病の初期にはまだ、インスリンがある程度は分泌・作用しているため、空腹の状態が長く続いていると、血糖値は正常値程度まで下がります。しかし、インスリンの働きが低下しているので、食後は高血糖となり、下がるのにも時間がかかるのです」。
つまり、空腹時血糖を調べるだけでは、糖尿病を見つけにくいケースもあるということだ。そこで、糖尿病の診断には、血糖値だけでなく、ヘモグロビンA1cも用いられている。
1度の血液検査で糖尿病と診断される場合も
ヘモグロビンA1cは、血液の赤血球に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結合したもので、1日の血糖値の平均が高いほど増える。血液検査でヘモグロビン中にヘモグロビンA1cが何%あるかを調べることで、検査前の1~2カ月間の血糖値の平均値を推察できる。
「ヘモグロビンA1cはもともとは糖尿病患者さんの血糖コントロールの状態を見るために使われていましたが、変動する血糖値と比べて判定しやすいため、1970年代半ばから糖尿病の診断や職場健診にも用いられるようになりました。米国などではヘモグロビンA1cだけで糖尿病を診断することもあるようですが、日本ではあくまでも血糖値と併用して診断します」(真山氏)
真山氏によれば、ヘモグロビンA1cの採用による最大のメリットは、「1回の血液検査で糖尿病と診断できるようになったこと」だという。
「かつては、血液検査で糖尿病が疑われた人には、二次検査として『ブドウ糖負荷試験(OGTT:Oral Glucose Tolerance Test)』が行われていました。OGTTでは、空腹時の血糖値を調べたうえで、75gのブドウ糖液を飲み、30分間隔で2時間後まで血糖値と血中インスリン値を測定します。糖代謝の状態が詳しく分かる一方で、患者さんや医師の負担が大きく、費用もかかる。そのため現在では、厳密な血糖コントロールが必要な『妊婦糖尿病』が疑われる妊婦さんに実施する以外は、ほとんど行われていないのが実情です」
日本糖尿病学会では、糖尿病の診断には、以下のような基準を設けている。
糖尿病の診断の流れ
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初回検査で糖尿病と診断される場合と、再検査を経て糖尿病と診断される場合がある。『糖尿病治療ガイド』(発行:日本糖尿病学会)を基に編集部で一部改変
まず、血液検査で血糖値とヘモグロビンA1c値を調べる。空腹時血糖値が126mg/dL以上なら「糖尿病型」、60mg/dL以上110mg/dL未満なら「正常型」、どちらにも属さない場合(110mg/dL以上126mg/dL未満)は「境界型」と判定される。随時血糖の場合は、200mg/dL以上で「糖尿病型」となる。
空腹時血糖値または随時血糖値で糖尿病型と判定され、同時にヘモグロビンA1cが6.5%以上だった場合には、1回の血液検査で糖尿病と診断される。また、血糖値で糖尿病型と判定され、糖尿病の典型的な症状(のどが渇く、体重の減少、尿量の増加など)や明らかな合併症(糖尿病網膜症など)がある場合にも、同様に1度の検査で糖尿病と診断される。
「境界型」は糖尿病予備軍。必ず再検査、生活改善を
一方、1回の検査では判断できず、再検査が必要となる場合もある。
「再検査で血糖値とヘモグロビンA1cのいずれも『糖尿病型』でない場合などは『糖尿病の疑いがある』にとどまることになりますが、『自分は将来、糖尿病になる可能性が高い』という認識を持つほうがいいでしょう。血糖値が『境界型』の場合も“糖尿病予備軍”と捉えて、再検査は受けるようにしてください」(真山氏)
糖尿病は進行するまで自覚症状が表れにくく、放置していると糖尿病網膜症や糖尿病性腎症(じんしょう)など、深刻な合併症を引き起こす。血管の老化も早く進み、動脈硬化による脳卒中や心筋梗塞などのリスクも高まる。
職場健診の糖代謝検査で「要注意」「要再検査」などと判定された人、特に肥満や飲酒の習慣がある人は、真山氏が薦める次のような生活習慣の改善を心がけるといいだろう。
1)食事は規則正しく、間食はしない
3度の食事はなるべく毎日同じ時間にとり、間食はしないようにする。また、朝食・昼食をしっかりとって、夕食は軽めにする。
2)定期的に運動をする
30~60分程度のウオーキングなどを毎日続ける。時間が取れない場合は、通勤時などになるべく多く歩き、休日にいつもより時間をかけて運動するように心がける。
3)カロリー過多になる習慣を控える
特に、飲酒や外食の習慣がある人は、カロリー過多になりやすいので要注意。ご飯の量は1日の食事を合わせて400g程度を目安にする。
真山享(さのやま きょう)さん
真山クリニック院長

1949年生まれ。東北大学医学部卒業後、同第三内科助手、同大学附属病院第三内科講師を経て、1995年聖路加国際病院内科医長。2001年に真山クリニック(東京都中央区)を開設。専門は内科学、とくに糖尿病。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医、糖尿病研修指導医。著書に『あなたの知らない糖尿病の話』など。
この記事は日経Gooday 2015年3月12日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
この記事はシリーズ「「一に健康、二に仕事」 from 日経Gooday」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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