Q
放射線の医療被ばくが心配で、職場健診の胸部エックス線検査だけは受けたくない。拒否することはできる?
A
基本的には受ける義務があるが、妊娠中など、医師が認めた場合に限り省略できるケースもある。
胸部エックス線検査を受けずに減給処分を受けることも。(©Thomas Hecker /123RF.com)
職場健診は法律上、会社には実施義務があり、従業員には受診義務があると、前回の記事(職場健診は、受けなければそれで済むんでしょ?) で紹介した。では、相談者のように医療被ばくが心配という理由で、胸部エックス線検査だけを拒否することはできるのだろうか。
一部の検査を拒否して減給になったケースも
職場健診の検査項目は、厚生労働省が労働安全衛生法に基づいて定めている。結核や肺がんなど肺に関わる病気の早期発見につながる胸部エックス線検査も、その1つだ。そのため、基本的にはほかの検査と同様に、従業員には受ける義務がある。
実際、過去には、胸部エックス線検査の有害性を理由に受けることを拒否した公立中学校の教師に対し、学校側が減給の懲戒処分を科したケースもある。それを不服とした教師が訴訟を起こし、地裁では学校側の減給処分は不当とする判決が出たものの、高裁、最高裁では学校側の減給処分は妥当と判断されている。
医師の判断により省略できるケースも
ただし、例外的に省略できるケースもある。まず、休業中の場合は、健診自体を受けなくても構わないため、自ずと胸部エックス線検査も受けずに済む。
また、医師の判断により、胸部エックス線検査を省略できるケースも一部認められている。青山学院大学大学院などで労働法関連の客員教授も務める、弁護士の岩出誠氏によれば、「先の訴訟をきっかけに、厚生労働省では、健診の胸部エックス線検査の対象者を見直すために専門家を交えた検討を行いました。その結果、医師が必要でないと認めた場合に胸部エックス線検査を省略できる基準を2010年に追加しています」。
職場健診で胸部エックス線検査を省略できる基準は以下の通りで、年齢や職場環境、既往歴などを基に設けられている。40歳未満で、かつ、20、25、30、35歳でない人などが対象になる。
医師が必要でないと認めた場合に胸部エックス線検査を省略できる対象者
40歳未満のうち、次のいずれにも該当しない者
(1)20歳、25歳、30歳、35歳の人(40歳未満で、5歳ごとの節目の年齢に当たる人)
(2)幼稚園を除く学校、医療機関や介護老人保険施設など、感染症法で結核に関する定期健康診断の対象とされる施設などで働いている人
(3)粉じん作業を行う人、呼吸器疾患の自覚症状や既往歴のある人など、じん肺法で3年に1回のじん肺健康診断の対象とされている人
※厚生労働省の資料を基に編集部で作成
では、上記の条件に照らし合わせて、省略が可能な対象者であると仮定して、「医師の判断」によって胸部エックス線検査の省略が実際に認められるのは、具体的にどんなケースなのだろう。
「職場健診に限らず一般的に、妊娠中の胸部エックス線検査は、母体や胎児への影響を考慮して省略される場合が多いでしょう。ただ、これは慣例となっているだけで、本来は『妊娠中だから当然受けなくてもいい』ということではありません。妊娠中であることを医師に告げて、医師が受けなくてもいいと判断した場合などは省略できます」(岩出氏)
前述の公立中学校教師の高裁判決では、胸部エックス線検査の人体への影響は、ほとんど考慮するまでもないが、ゼロではないと述べられている。不安がある場合は、医師に相談してみるとよいだろう。
岩出誠(いわで まこと)さん
弁護士、ロア・ユナイテッド法律事務所代表パートナー

1973年千葉大学人文学部法経学科(法律専攻)卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科入学。東大民事判例研究会、東大労働法研究会に所属し、主に医療事故、労働災害などを含めた各種現代災害・事故に関する損害賠償法、労働保険法を中心として責任保険法、労働基準法を研究。同年10月に司法試験合格。75年同大学院修了後、最高裁判所司法研修所を経て、77年東京弁護士会入会。86年岩出綜合法律事務所を開設。2001年から現職。
この記事は日経Gooday 2015年1月15日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
この記事はシリーズ「「一に健康、二に仕事」 from 日経Gooday」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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