現代社会の荒波の中で、「男らしさ」というイメージが男たちを苦しめている――。著書『男はなぜこんなに苦しいのか』(朝日新聞出版)で心療内科医の海原純子さんが指摘するこの事実は、程度の差こそあれ、働く世代の多くの人が共感するところかもしれない。そんな現状について聞いた前回に続き、今回は働き方とストレスの関係について伺った。

経営者に求められる適材適所の人材配置

あなたの会社では適材適所の人材配置が行われているだろうか。(©Wavebreak Media Ltd 123-rf)
あなたの会社では適材適所の人材配置が行われているだろうか。(©Wavebreak Media Ltd 123-rf)
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――前回、男性たちが「男らしさ」にがんじがらめになっている現状をお聞きしましたが、これは個人の気質的な問題と、社会の仕組み自体の問題が絡み合って引き起こされているように感じました。

 その通りです。これまで私は女性を専門に診ていたということもあって、男性に関しては「妻の背後に見える夫」という立ち位置で感じてきました。そのときはまだ、仕事は大変だったかもしれないけれどプライドがズタズタにされるようなことはなく、軽いストレス解消法で乗り切れることが多かったと思うんです。

 でも経済的基盤が揺らぎ、会社は成果主義へと変貌を遂げ、さらに日本の場合は結果主義を求める一方で勤務時間まで見張られているような状態で、一人だけ早く帰社するのが難しいのが現状ですよね。つまり、会社自体のあり方も一緒に考えていかなければ、男性たちが抱える“生きにくさ”を是正することはできないと思うのです。

 経営者たちは人件費を減らすために正社員をばさばさカットし、派遣社員や契約社員を採用することに躍起ですが、そんなことをしても決して社内の雰囲気は改善されません。そもそも派遣社員や契約社員の人は正社員に比べて自分の裁量でできる範囲が限られていることが多く、待遇にも差があります。このようなことから生じる軋轢(あつれき)は、派遣社員や契約社員はもちろん、正社員にとってもストレス要因につながりやすいのです。

 人件費削減の前に会社がやるべきことは、社員一人ひとりの適性をきちっと把握すること。そして、彼らの持つスキルや才能が発揮できる配置転換を考えることにほかなりません。

「やらされている感」をなくすことで会社全体の雰囲気が変わる

――おっしゃる通りだと思うとともに、実現はなかなか難しいことのようにも思いますが、実際にそういった取り組みをして成功した事例はご存じですか?

 私がメンタル面で携わっている企業の話なんですが、初めてその会社を訪れた時、病院かと思うほど雰囲気が暗かったんです。引きこもって会社に出てこない人もいて、心身症で倒れてしまう人が続出していました。

 そのため社員の皆さんと面談しながら仕事の適性を見ていくと、全然ITに向いていない人がITの部署にいたり、営業が得意なのに事務方に回されていたりと、人材配置がぐちゃぐちゃになっていることが分かったんです。そこでトップにその結果をお知らせしつつ、私自身が入社面接にも携わり適性を見極めるようになったら、5年くらいで社内のムードがガラリと変わり、会社の業績もアップしました。

 社員皆が来客者に挨拶するようになったし、とにかく明るくなった。仕事が忙しいことに変わりはないですが、適材適所の人材配置ができたおかげでモチベーションが上がり、「やらされている感」がなくなったんです。

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