「これが、『機内でのアルコール摂取がエコノミークラス症候群を引き起こす可能性がある』と言われる理由です。エコノミークラス症候群を避けるためにも、アルコールは控えたほうがいいでしょう。特に心臓病などの血管系の病気や生活習慣病をお持ちの方は注意が必要です。また、女性の場合、血栓リスクがあるピルを服用している方は要注意です」(大越院長)
確かに機内の乾燥は尋常ではない。肌だって、目だってパリッパリになる。そんな状況下になると、左党は「乾燥で喉が渇くからビールで喉を潤そう」と考えがちだが、アルコールは水分補給どころか、脱水を助長してしまうのだ。
取材後に改めて、航空会社のホームページを見ると、「アルコールは利尿作用があるため、尿が出やすくなってしまい、血液中の水分量が減少して、血栓ができやすくなってしまいます」という注意書きも書いてあるではないか。
飲酒量はどのくらいに抑えれればいいのか
だが、そうしたことをわかっていても、「やっぱり飲みたい」と思ってしまうのが左党の性。もし機内で飲むとしたら、酒量はどのくらいにすればいいのだろうか。
「できればお酒は避けていただきたいところですが、『どうしてもお酒を飲みたい』のであれば量を減らしてください。あくまでも目安ですが、日ごろの半分程度にとどめておくのが賢明でしょう。また、アルコール度数の高いウイスキーやブランデーはストレートやロックで飲むとアルコールの影響が出やすくなるため、水で割って飲むようにしましょう。気をつけたいのが、ビールやスパークリングワインなどの炭酸系。機内は胃腸の中の空気が膨張するので、ガス腹にならないようにするためにも、避けたほうが無難です」(大越院長)
ちなみに、「機内で飲むのがダメなら、乗る前に飲んじゃえ!」はアリなのかと大越院長に問うと、「気圧や湿度などの環境が変わる前に、お酒を飲んで酔っぱらうのはもってのほかです」と即却下されてしまった。確かにアルコールを摂取するのは同じ…愚問だった。
水分は1時間に100cc摂取すべし
飲酒量を抑えるほかに注意すべきポイントはないのか。大越院長は、水分をこまめに摂ることを強く勧める。
「水分を多く取ることがとても大切です。食事の水分量も含め、1時間に100cc程度摂取するように心がけましょう。個人差がありますが、体重1キロあたり2ccが適量なので、体重50kgで100cc、体重100kgなら倍の200cc程度摂ることをお勧めします。喉が渇く前に、こまめに水を飲むよう心がけましょう」(大越院長)
こうしたことに加え、血栓予防のためにも「長時間のフライトの場合は、足を曲げたり、伸ばしたりするなどの軽い運動をすることも重要です」と大越院長。女性の場合、弾性ストッキングを身に付けることも有効な手立ての一つだという。また、骨折などで足が固定されている場合は、事前に主治医に相談し、血栓の予防薬を処方してもらうという方法もあるそうだ。
「色々と脅かしてしまいましたが、怖がることはありません。一番大切なのは『地上とは環境が違う』ということを意識すること。それさえわかっていれば、無茶飲みして泥酔することはまずないでしょう。医師の立場からすれば、飛行機を降りてから飲んでくださいと言いたいところですが…(笑)」(大越院長)
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長時間のフライトでは、酒を飲むことも大きな楽しみの一つだ。かつては航空会社も「機内でお酒を飲んでいただくのはサービスにつながる」と考えていた。しかし2000年ごろから、エコノミークラス症候群が取り沙汰されるようになり、航空会社の機内でのアルコール提供に対する考え方も変わってきたように思う。ホームページなどでもアルコールの多量の摂取は控えた方がいいことを記載している。
機内で酒を飲み過ぎて具合が悪くなってしまえば、出張、楽しい旅行も台無しだ。また、万が一、飛行機が事故に遭った場合、泥酔していたら適切な行動を取りにくくなる。機内での飲酒はくれぐれも控えめにして欲しい。
航仁会 渡航医学センター 西新橋クリニック 理事長

この記事は日経Gooday 2016年4月22日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
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