なぜ女性たちが5坪の店に夜な夜な集うのか?
第4回 「麺や 庄の gotsubo」(東京・新宿御苑前)
ラーメンは、多くの人に愛されているにもかかわらず、“不健康”なイメージがある。そんなラーメンがここ数年で変わりつつある。素材にこだわる店が増え、「健康に配慮した」ラーメンを出す店が増えているのだ。それに伴い“ラーメン女子”と呼ばれる女性客も急増中。そこで、健康志向ラーメンの最新トレンドをいち早く取り上げ、東京で今話題のラーメンを提供している店を1軒ずつ紹介していく。今回紹介するのは、「野菜を食べるつけ麺」をコンセプトに掲げる「麺や 庄の gotsubo」。ラーメンの名店「麺や庄の」が女性をメインターゲットに据えた店だ。
女性が入りにくいと言われてきたラーメン店。しかし、ここ2、3年で事情は変わった。今では女性比率が高い店が続々と登場している(写真は、「麺や 庄の gotsubo」の「ベジつけめん」)
[画像のクリックで拡大表示]
ラーメン店は一般に、女性が入りにくいと言われる。筆者は飲食店の取材を生業にしているので飲み屋から高級店までさまざまな店を訪れるが、それでも女性一人でラーメン店に入るにはちょっと勇気がいるし、カウンターで男性客の中に一人座ると少し落ち着かない感じになる(今では多少慣れたが…)。
「野菜を食べるつけ麺」がコンセプト
「麺や 庄の gotsubo」は、新宿御苑前駅から徒歩3分の場所に店を構える。店の前に大きく「野菜を食べるつけ麺」と書かれている
[画像のクリックで拡大表示]
しかし、ここ2、3年でずいぶん事情は変わった。今では女子ラーメン特集が雑誌を賑わすくらいになっており、先日紹介したソラノイロのように女性の来店比率が高い店も増えている。今回紹介する東京・新宿御苑前の「麺や 庄の gotsubo(ゴツボ)」も女性に人気で、女子ラーメンブームの火付け役となった一軒。
実際、桜の開花が報じられた後の、3月末の平日の夜に訪れると、店の外に若い女性が数人待っていた。さらに、中を覗くと6人が座れるカウンターの半分を女性が占めている。彼女たちのお目当てが、店の前にも大きく書かれている「野菜を食べるつけ麺」。そう、この店のテーマは、ズバリ“野菜”だ。
おいしく、健康的なラーメンでないといけない
東京のラーメン好きなら、「麺や 庄の」の名前は一度は聞いたことがあるのではないだろうか。MENSHO代表/ラーメンクリエイターの庄野智治氏が、2005年に東京・市ケ谷で初店舗をオープン、濃厚豚骨魚介スープのラーメンとつけ麺が人気となり東京を代表する人気店になった。現在は、新宿を中心に「二丁目つけめんGACHI」「油そば専門店GACHI」などを展開している。各店それぞれ違うコンセプトとメニュー構成にしている。
シンプルなデザインでまとめられた清潔感ある店内。客席は、一列に並ぶカウンターのみで全6席
[画像のクリックで拡大表示]
そんな「麺や 庄の」が「野菜を食べるつけ麺」をコンセプトに掲げ、女性をメインターゲットにして2013年2月にオープンしたのが「麺や 庄の gotsubo」だ。「濃厚豚骨魚介スープのラーメン店が、野菜中心のつけ麺?」と不思議に思う人もいるだろう。庄野氏は開店の経緯をこう話す。
「私は普段からラーメンを中心に食べ歩きをするのが趣味なのですが、30歳を過ぎたくらいから自分自身の健康を強く意識するようになりました。ラーメンは油が多く、野菜が少ない。日常的に食べてもらうためには“おいしく”“健康的な”ラーメンでないといけません。そんな思いからオープンしたのがgotsuboです」
「『野菜を食べるつけ麺』というコンセプトをひらめいたのは、実は焼肉店で食事をしていたときのことなんです。焼肉は、もちろん肉も焼きますが、野菜も焼き野菜にして食べますよね。肉が主役でありながら、野菜もたっぷりおいしく食べられる。このすばらしさを、ラーメンでもできないかと考えたのが始まりです」
「オープン当初は、ラーメン店に女性客はほとんどいらっしゃいませんでした。ラーメン店側も女性を意識していたところは少なかった。しかし、今では女性のお客様がどんどん増えています。とてもうれしいですね」
店長のユニークな後ろ姿は必見
昼夜1人で店を切り盛りする店長の松浦大悟氏。カウンター内の厨房で、テンポよくラーメンを作り上げる
「麺や 庄の gotsubo」は、店名の通り5坪の小さなスペースの店だ。白い壁とチェアが印象的で、荷物入れとしてワインの木箱を各席に置くなど細やかな配慮が感じられる。
カウンター内の厨房に立つのは、店長の松浦大悟氏。黙々と調理するTシャツの背中に目をやると「いらっしゃいませ~。私、独りぼっちなもので、食べ終わった食器とグラスを台の上に置いて、テーブルを拭いていただけると助かります」とのメッセージが書かれている。このユニークなアイデアに、ほとんどの客が協力してくれるという。
イタリアン? いえ「つけ麺」です
「ベジつけめん」(990円)は、夜の部のみ提供。イタリアンのパスタの一皿とも間違えそうな色とりどりの一皿
[画像のクリックで拡大表示]
夜のみ提供の看板メニュー「ベジつけめん」(990円)は、「コレ、本当にラーメン?」と驚かされる逸品だ。麺の周りに、パレットのようにカラフルに並ぶのは、季節の訪れを感じさせてくれる野菜を中心としたこだわりのトッピング。この皿だけを見たら、イタリアンのコースの途中で供されたパスタ料理だと言われても納得してしまうのではないだろうか。
この日は、カブ、ズッキーニ、冬瓜、水菜、レンコン、カボチャなどおよそ20種類の野菜、低温調理したチャーシューや煮込んだばら肉、煮玉子、穂先メンマなどが美しく飾られていた。野菜は、素材に応じた調理法やカッティングが施され、飽きることなくたっぷりと食べることができるのも嬉しい。
カウンターのガラスケース内に並ぶ野菜の数々。食感を楽しめるように工夫してカットされている
[画像のクリックで拡大表示]
葉物野菜の上には、爽やかな香りを加えるため、津軽りんごの果汁で作った泡がトッピングされている。フルーツ果汁に大豆レシチンというタンパク質を加え、空気を入れて作ったものだ。夏場はグレープフルーツに替えているという。見た目にも技法にもこだわりが満載。来店客の半数が女性というのも納得だ。
つけ麺の麺の量は一般に250gくらいのことが多いが、「ベジつけめん」は150gと少なめにしている。「麺の量を少なめにすることで余分なカロリーを抑えつつ、野菜をたっぷり摂っていただけるようにしています」(庄野氏)。タピオカを練り込んだオリジナルの麺は、モチモチとした食感が特徴の太麺で、のびない工夫がされている。ちなみに、麺の量は減らすことも可能だ。
「海老とトマト」「生姜」の濃厚スープも魅力
つけ汁は、「海老とトマトの鶏白湯スープ」と「生姜スープ」の2種類から選ぶことができる。2人で訪れたら両方頼んで、食べ比べると楽しい
[画像のクリックで拡大表示]
こだわりのスープ(つけ汁)は2種類から選択できる。このスープも人気の理由の一つだ。いずれも鶏ガラをベースにしている。「海老とトマトの鶏白湯スープ」は、鶏、エビ、トマトの3種類の食材をバランス良く使用した濃厚なスープ。フランス料理などで提供されるエビのビスク(エビなどの甲殻類をベースにして作られた濃厚な味わいのスープ)のような味わいだ。3種の食材を香ばしく炒めてからダシを取っているそうだ。
もう一つの「生姜スープ」は、鶏ガラスープにたくさんの生姜を入れて煮込んだというカラダが温まるスープ。お客様に提供する直前にさらに生姜を追加している。寒い日には生姜の量を多めにするなど、日々レシピの微調整をしている。ソースのような濃厚で食べ応えあるスープは、野菜をバーニャカウダ感覚でつけて食べるのにもピッタリだ。
食べた後のお楽しみも
ベジつけめんには、食べた後のお楽しみがある。残ったスープに入れるリゾットだ(100円)。2種類のスープは“旨味のかたまり”ともいえるすばらしい味わいなので、残すのはもったいない。店長の松浦氏に「リゾットお願いします」とオーダーすれば、五穀米を入れて熱々に煮込んだリゾットを作ってくれる。おなかに余裕があったらぜひ!
「かぼちゃ豆乳プリン」(300円)。砂糖や生クリームを一切使っていない。自然な甘さの優しい口当たりだ。デザートは数カ月ごとに替わる
[画像のクリックで拡大表示]
デザートに、オシャレなカフェで提供されるような愛らしいスイーツを用意している。これも女性客に人気の理由の一つだろう。「かぼちゃ豆乳プリン」(300円)は、素材の甘味を大切にした優しい味わい。加糖はまったくしていないなど、カラダ思いのレシピで仕上げている。
なお、ベジつけめんは夜のみ限定商品なので、これを目的にするなら夜に訪問しよう。昼の営業時間は、「イベリコ豚の塩らーめん」と「イベリコ豚の醤油らーめん」の王道のラーメンの二本立てだ。いずれも厳選した素材を使ったこだわりのラーメンで、これらは夜も食べることができる。
◇ ◇ ◇
「麺や 庄の」は2016年2月に、米サンフランシスコ店をオープンした。構想から2年もかけてこぎつけたオープン初日には、アメリカのラーメン好きが集まり、100人以上が行列をつくったという。こちらは、ベジタリアンを意識したビーガンメニューで構成している。
写真/福本和洋(MAETTICO)
この記事は日経Gooday 2016年4月1日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
Powered by リゾーム?