パワハラ加害者の行動は再発する

 パワハラがエスカレートする性質を踏まえ、企業では職務内容に応じて、より具体的な加害者向けのチェックシートなどを用意している。中間管理職になったら職場のマニュアルなどで調べてみて、年に1度は確認してみるといいだろう。

 さらに、将来的にパワハラ加害者になりやすい「心の状態」があることも分かってきた。以下の項目で、1カ所でも思い当たるところがあったら、部下とのコミュニケーションの方法について、職場や地域の産業精神保健の担当医、カウンセラーに相談してみるといいだろう。

仕事中にこんな心の状態になったらご用心

■厳しく叱ることが部下のためだと考えている。
■出来の悪い部下を割り当てられてしまったと思ったことがある。
■どうしても目障りに感じてしまい、無視しがちな部下がいる。
■学校やスポーツで体罰をする指導者の気持ちが理解できる。
■仕事のできない部下の仕事を減らすのが効率的だと思う。
■自分は短気で怒りっぽいと思う。
■職場でのコミュニケーション不足を不満に思う。
■部下から意見を述べられると不愉快に思う。

1カ所でも思い当たる項目があったらパワハラになりやすい状態といえる(古賀教授の話や厚生労働省の資料を基に構成)。

 パワハラ防止に取り組んでいる企業では、電話やメールによるホットラインなどの相談制度も設けられているが、現段階では十分な効果が上がっているとはいえない。日本でパワハラ問題が浮上している背景には、日本の企業風土があると専門家は考えている。「契約」の考え方が強い欧米企業では、たとえ上司であっても職務を超えた範囲で権限を行使できず、部下も不当な指示を受ければ「職務上決められたこと以外は口を出すな」と主張する。それに対して職務と職務外の線引きが曖昧な日本では、「成績向上のための指導がなぜ悪い」となりがちだ。

 そして、本人が気づかないうちに社内で、「あいつはパワハラ常習者」の烙印(らくいん)を押されかねない。パワハラに対する対処は企業によって大きく異なるが、最近では、数回パワハラ行為が認められると「降格」といった処分が下されることもある。一部の企業では、パワハラ加害者を一時的に部下のいない部門に配属する場合もある。元の職場に戻すと、再びパワハラを起こす恐れがあるからだ。古賀教授は「パワハラの加害者になる人は、これまで自分のやり方で成功してきたし、会社にも大きな貢献をしているという自負がある」と、その背景を解説する。

視点を変えて自分を客観視する

 では、上記のチェックリストで思い当たる項目があった場合はどうすればいいのか? そんなパワハラ加害者および予備軍たちに対する古賀教授のアドバイスは、「もっと広い観点から、中間管理職としての自分のありようを見つめ直す」ことだ。

 パワハラ系の中間管理職は、上ばかり見る傾向が強い。職場の成績や上からの評価ばかり気にしているから、パワハラを是としてしまう。「そのような人は、大企業の社長、会長など、自分よりずっと成功しているビジネスパーソンがどういう行動をしているかを勉強してみるとよい」(古賀教授)。今の自分のやり方とは全く異なるものであることが、わかるだろう。

 また、自らがパワハラ加害者になっていないかは、心身の状況の変化でも推察できる可能性がある。「パワハラ加害者は、気づかないうちに自分自身のやり方に疲れ、高度の不眠になる例が見られる」(古賀教授)。このほか、パワハラを繰り返してきた人に退職後の生活について尋ねると、「静かな自然で農業の体験をしてみたい」など、らしからぬ夢を語ることがあるという。

 先に紹介したチェック項目や心身の変化などにおいて思い当たるところがあった人は、ビジネスパーソンとしてのより良い人生を考え直す好機を得たのだととらえ、自分の姿を今一度振り返ってみてほしい。

古賀良彦(こが よしひこ)さん
杏林大学医学部精神神経科 主任教授
古賀良彦(こが よしひこ)さん 1946年、東京都世田谷区生まれ。慶応義塾大学医学部を71年に卒業。76年に杏林大学医学部精神神経科学教室に入室、90年に助教授、99年に主任教授となり現在に至る。日本催眠学会名誉理事長、日本ブレインヘルス協会理事長、日本薬物脳波学会副理事長、日本臨床神経生理学会名誉会員などを務める。

この記事は日経Gooday 2015年1月6日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

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