限られた場面で症状が現れるケースも
これに対して「限局型」と呼ばれる症状もある。例えば「書字障害」と呼ばれるタイプは「人前で字を書くのが苦手」というもの。「クレジットカードの伝票にサインできない」「ホテルのフロントで記帳できない」などの問題も生じる。また「食事障害」は複数の人と一緒に食事ができないというもの。社員食堂に入れず、コンビニで買ってきたおにぎりをトイレや屋上で1人で食べる患者の例もあったという。
社交不安障害の新しい治療法は、患者の症状の強さや生活環境などを考慮しながら、薬物治療と心理療法を組み合わせる。薬物治療の進歩により、抗うつ薬の一つであるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が有効であることが分かってきた。社交不安障害の患者は、人前で起こったさまざまな症状を経験すると、「また恥ずかしくなるのでは」という不安が起こり、さらに症状が出やすくなる悪循環に陥りやすい。古賀教授は「こうした悪循環を、専門家によるカウンセリングや薬物治療で解消し、仕事や生活に支障が出ないようにできる」と話す。
ところで、世界の特定の地域・文化圏に起こりやすい病気のことを、専門用語で「文化依存症候群」と呼ぶ。世界の医学書に日本人に特有の病気として記述されているのが「Taijin kyofusho(対人恐怖症) symptoms」だ。このように、人前に出るのが恥ずかしいという症状は、日本人にとって特別なものではない。
では、ただの「あがり症」と治療が必要な社交不安障害は、どうやって区別したらいいのだろうか。診断には問診票が用いられており、さまざまな医療機関がWebサイトで公開しているが、最もシンプルなものを以下に示す。これを参考に、社交不安障害の疑いがあるかどうかをチェックしてみるとよい。
社交不安障害の問診(DSMによる簡易面接法)
1.人前で話をしたり、食事をしたり、文字を書いたりするときに、他人から注目されていると思うと、怖くなったり戸惑ったりする。
2.1の症状について、自分でも恐がり過ぎていると感じる。
3.1の症状は、わざわざ避けたり、じっと我慢したりしなければならないほどである。
4.1の症状によって、職業・社会生活が妨げられているか、著しい苦痛を感じている。
これらのすべての項目に当てはまる場合、社交不安障害の可能性がある。
杏林大学医学部精神神経科 主任教授

この記事は日経Gooday 2014年12月2日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
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