子どもの頃から「あがり症」のオレ。小学校時代の学芸会では、自分から「岩」の役に立候補したほど。大学を卒業後は、メーカーの品質管理部門に勤務。精度の高い作業をコツコツとこなす仕事ぶりが評価され、「室長」に昇進したのだが、そこで困った事態に。毎朝、現場作業員を集めて「朝礼」をしたり、社内の関係者を集めて報告会を行ったりと、人前で話をする機会が急増。あの「あがり症」が日々顔を出すように…。品質情報を伝えるだけなのに、心臓がドキドキして額からは汗がだらだら流れるほど。吐き気さえ感じることもある。今や管理職返上という言葉が頭をよぎる…。
(イラスト:川崎タカオ)
(イラスト:川崎タカオ)

 知らない人の前で話をするのは、誰でも不安を感じ緊張するものだ。就職活動の面接などで、「話したいことの半分も話せなかった」という人は多いだろう。このように不安が強くなりがちな状態は「あがり症」「対人恐怖症」などと呼ばれる。思春期に、少なからずみられる傾向の一つで、大人になるにつれて改善することが多いとされている。完全に改善しなくても、日常生活に支障がなければ、いわゆる「シャイ」な人ということになる。

 しかし、大人になって悪化したり、不安がどんどん強くなり日常業務に支障を来すようになってきたら、一度、精神神経科や心療内科で相談してみてほしい。「社交不安障害」という病気の可能性もあるからだ。

あがり症に有効な薬物治療が登場

 社交不安障害といっても、聞き覚えのない人がほとんどだと思うが、新たに登場した病気ではない。杏林大学病院精神神経科の古賀良彦教授は「かつては、あがり症を患者のパーソナリティーの問題と考え、積極的な薬物治療などは行われなかった。しかし最近は、海外での臨床研究によって有効な薬物治療が明らかになったことで、この病気に対する認識が変わった」と話す。

 そして欧米での呼び名「Social Anxiety Disorder」が日本にも登場。最初は直訳で「“社会”不安障害」と呼んでいたが、日本では「社会不安」という言葉には別の意味があるので、2008年に日本精神神経学会によって「社交不安障害」に名称変更された。

 古賀教授は「これまでの研究で、社交不安障害には、いくつかのタイプがあることが分かってきた」と話す。例えば、人とコミュニケーションするときに症状が出る場合は、「全般型」と呼ばれる。最も多いのは、「見知らぬ人や、それほど親しくない人との会話」「人前での発言、スピーチ」のときに起こる下表のような症状だ。なかには「人前で電話を取る」といったときに症状が出る場合もある。

「全般型」の社交不安障害の症状

■顔が紅くほてる
■胸がドキドキして息苦しい
■額などに汗をかく
■手足、体、声が震える
■吐き気が起こり、口が渇く
■めまいがする

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