6秒数えながら身体的感覚に意識を向ける

 怒りが爆発しそうになったときの対処法として、まず「6秒数える」という方法が知られるようになっています。脳の働きを研究する専門家や、怒りの感情をコントロールするトレーニング法「アンガーマネジメント」の専門家も、この方法を推奨しています。

 私はこの6秒数えるというときに、頭の中でカウントするだけでなく、実際に指で数えることを勧めています。怒りで感情が高まったときには、体がこわばってしまいがちで、手をギュッと握ってしまう人も多いのです。ですから、手をほぐすように指を順番に開いて「1、2、3、…」と数えていくと、意識が指のほうに向き、体の力も抜けていくことで、感情も落ち着いてくるでしょう。

 怒りの感情に流されそうになっているときは、呼吸が早く浅くなって、乱れていることも多いものです。呼吸を整えて自律神経に働きかけ、交感神経を静めることで、冷静さを取り戻せます。呼吸を整えるには、横隔膜を動かす腹式呼吸が有効です。まず口から息を深く吐き、吐き切ったあと、鼻からゆっくりと空気を吸います。そして今度は、口からゆっくりと息を吐きます。ポイントは、吸うときよりも吐くほうを長くすること。そして、息を吐きながら腹部が凹んでいくことにも意識を向けてみてください。指でカウントするときと同様に、意識を体のほかの部分に向けることで、怒りの感情をやり過ごすのです。

 自分の好きな言葉や心が落ち着く言葉を、心の中で唱えてみるのもいいでしょう。一例として、「ホ・オポノポノ」というハワイの伝統的な問題解決法の中に、4つの言葉を唱えて心をクリーニングする方法があります。その4つの言葉とは、「ありがとう」「ごめんなさい」「許してください」「愛しています」。この4つの言葉を、潜在意識に働きかけるように繰り返し唱えます。

 ホ・オポノポノを世界的に広めた第一人者のイハレアカラ・ヒューレン博士は、ホ・オポノポノの実践によって、精神障害を持つ重罪犯の更生に大きな成果を挙げたことが知られています。国際連合やユネスコなどでも、ホ・オポノポノに関する講演を行っていて、日本でもホ・オポノポノを紹介する書籍が複数出版されていますので、興味のある方は一読してみるといいでしょう。ホ・オポノポノをビジネスに生かすメソッドなどもあるようです。

 そして、できれば怒りのタイミングを物理的にずらす方法を取れるとベストです。例えば、部下を怒鳴りつけたくなったら、その場を離れてトイレなどへ行く。そこで、鏡を見て自分の顔をチェックしてみてください。怒りでこわばったり、歪んだりした表情は、自分で見てもがっかりしてしまうはず。すると、怒っていた感情も萎えて、冷静さを取り戻せるでしょう。

 怒りの感情が落ち着いたら、なぜ部下がミスをしたのか、どのように改善してほしいのか、どうすればミスを防げるのかなどを客観的に考えて、冷静に伝えることも必要です。その際は、「部下を叱るときは『かりてきたねこ』を心得よ」を参考にしてください。

  • 部下のミスに怒りを覚えたときは、ミスへの怒りか、部下個人への怒りかを見極める
  • 実際に指でカウントしながら6秒数える、吐く息を長くする腹式呼吸で呼吸を整えるなど、身体的感覚に意識を向けて、怒りをやり過ごす
  • 自分の好きな言葉や心が落ち着く言葉を唱えて感情を静める
  • その場を離れて、鏡で表情をチェックする

(まとめ:田村知子=フリーランスエディター)

渡部 卓(わたなべ たかし)さん
帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表、産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ
渡部卓(わたなべ たかし)さん 1979年早稲田大学卒業後、モービル石油に入社。その後、米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。90年日本ペプシコ社入社後に米国本社勤務を経て、AOL、シスコシステムズ、ネットエイジでの幹部を経験し、2003年ライフバランスマネジメント社を設立。以来、職場のメンタルヘルス対策、ワークライフコーチングの第一人者として、講演、企業研修、教育分野、マスコミでの実績は海外も含めて多数に上る。著書に『折れない心をつくる シンプルな習慣』(日本経済新聞出版社)、『明日に疲れを持ち越さないプロフェッショナルの仕事術』(インプレス)、『金融機関管理職のためのイマドキ部下の育て方』(近代セールス社)などがある。