部下を叱るときは「かりてきたねこ」を心得よ
部下のパフォーマンスを下げずに、こちらの気持ちを冷静に伝える
この記事の著者
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渡部 卓=帝京平成大学現代ライフ学部教授
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ライフバランスマネジメント研究所代表
ビジネスパーソンが仕事を続けるには、「病気の予防」や「能力を高める」ほかに、「メンタルヘルスを強化する」ことも必要不可欠な要素だ。帝京平成大学現代ライフ学部教授・ライフバランスマネジメント研究所代表の渡部 卓さんが、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタル不調の切り抜け方を指南していく。(日経グッデイの連載コラム「働く人のココロを鍛える コンディショニング術」から転載)
Dさん(40歳・食品メーカー 課長)
会議に遅刻する、ケアレスミスが多いといった点が目立つ部下に注意したいが、それでモチベーションが下がってしまうのも困る。部下が反発せずに改善に導くには、どんな叱り方をすればいいだろう。
部下をどう叱ればいいのか、試行錯誤している管理職は多いようです。私は管理職向けのセミナーなどで、叱り方のコツを「かりてきたねこ」と表現して紹介しています。これは、叱り方の7つのポイントの頭文字をとったものです。
部下を叱るときのコツは「かりてきたねこ」
- か … 感情的にならない
- り … 理由を話す
- て … 手短に済ませる
- き … キャラクター(性格や人格)に触れない
- た … 他人と比較しない
- ね … 根に持たない
- こ … 個別に伝える
感情的に「怒る」のではなく、冷静・端的に「叱る」
感情をそのままぶつけてしまうと、単に「怒る」だけになってしまいます。(©studiostoks-123rf)
部下に何を改めてもらいたいのか客観視する
「感情的にならない」とは、上司が気持ちを押し殺さなければいけないという意味ではありません。部下を叱ろうとするとき、感情をそのままぶつけてしまうと、それは単に「怒る」だけになってしまいます。まず、自分が部下のどんな行動、態度を改めてほしいと思っているのか、冷静に客観視してみましょう。
叱る理由を伝える
そのうえで、なぜ叱るのか、「理由を話す」ことも大切です。理由や目的を明確にせずに叱ってしまうと、部下に「八つ当たりされた」「嫌われている」などといった誤解を抱かせてしまいます。
ポイントを絞って手短に済ませる
くどくどと同じことを繰り返したり、芋づる式にそのほかの不満を並べたりするのもよくありません。叱るときはポイントを絞って「手短に済ませる」こと。そのためには、話を切り出す前に「10分ほど話したい」などと終わりを決めておくのも有効です。
キャラクター否定、他人との比較は避ける
部下を叱る前に、「かりてきたねこ」を思い出そう。(©studiostoks-123rf)
部下の行動やミスを指摘はしても、「キャラクター(性格や人格)には触れない」ようにしましょう。とくに、キャラクターを否定するような言い方は反発を招きます。例えば、会議に遅刻することを「君はだらしがないから遅刻するんだ」といったり、ケアレスミスを「あなたはいつも不注意だ」といったりするのはNGです。
また、主語を「君」や「あなた」など2人称にすると、叱られているというより、責められていると感じる場合もあります。「私は君の遅刻が残念だ」「私はあなたにきちんと確認してほしい思っている」など、主語は「私」にして話すように意識するといいでしょう。
キャラクターに触れないことと同様に、「他人と比較しない」ことにも気をつけてほしいと思います。他人と比較して叱られれば、誰でも自尊心が傷つきます。とくに最近の若い人は自己効力感(※)が高いので、できている点を認めたり、褒めたりしたうえで、遅刻やミスなどその人ができていない点を改善すればもっと評価できるといった言い方で伝えるといいでしょう。
※自己効力感とは、人が何らかの課題に直面した際、こうすればうまくいくはずだという期待(結果期待)に対して、自分はそれが実行できるという期待(効力期待)や自信のこと。
自分より年上の部下には日ごろの敬意が肝心
今は、自分より年齢が上の部下や外国籍の部下を持つ人も多くなってきています。そうした人たちを叱るときにも、他人と比較したり、同列を求めたりすると、トラブルになることがあります。年上の部下に対しては、業務上は自分の方が責任のある役職でも、人生では先輩という敬意を持って日頃から接していれば、叱ったり注意をしたりしても、理解を得られるはずです。外国籍の部下に対しては、文化や生活習慣、宗教などの違いに配慮することが必要です。
ほかの人がいない場所を設ける
部下を叱ったら、そのあとも引きずらず「根に持たない」こと。ミスをいつまでも覚えていて、ことあるごとに責めたり、懐疑的な態度を取ったりすれば、部下は信頼されていないと感じてしまいます。また、「周りに配慮して、個別に伝える」ことも大切です。同僚や後輩のいる場で叱ると、貝のように口を閉ざしてしまったり、歯向かってきたりすることが多いものです。叱るときは会議室などほかの人がいない場を設けるようにしましょう。
落ち着いて話すためにグリーン車を活用するのも一手
私がかつて、外資系企業に勤務していた当時はとても多忙で、部下とのコミュニケーションもとりづらい状態でした。そのような背景もあり、部下を叱るときに限らず、落ち着いて話をしたいときには、出張時の新幹線のグリーン車を利用していました。観光客や家族連れなどもいる普通車ではなかなか仕事の話をする雰囲気にはなりませんが、グリーン車ではある程度の緊張感があって、腹を割った話もしやすいもの。日本企業では経費管理が厳しく、グリーン車の利用はなかなか難しいかもしれませんが、例えば、東京と新大阪間なら料金の差額は1人5000円程度です。その間に有意義な話ができれば、私は決して高い金額ではないと思います。
時には、そうした話しやすい雰囲気や場を設定することも有効ではないでしょうか。
【まとめ】
- 叱るときは「かりてきたねこ」を意識する
- 主語は「私」にして話す
- できている点を褒めたり認めたりしたうえで叱る
- 叱る場は個別に設定する
(まとめ:田村 知子=フリーランスエディター)
渡部 卓(わたなべ たかし)さん
帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表、産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ

1979年早稲田大学卒業後、モービル石油に入社。その後、米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院でMBAを取得。90年日本ペプシコ社入社後に米国本社勤務を経て、AOL、シスコシステムズ、ネットエイジでの幹部を経験し、2003年ライフバランスマネジメント社を設立。以来、職場のメンタルヘルス対策、ワークライフコーチングの第一人者として、講演、企業研修、教育分野、マスコミでの実績は海外も含めて多数に上る。著書に『折れない心をつくる シンプルな習慣』(日本経済新聞出版社)、『明日に疲れを持ち越さないプロフェッショナルの仕事術』(インプレス)、『金融機関管理職のためのイマドキ部下の育て方』(近代セールス社)などがある。
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