ビジネスパーソンが仕事を続けるには、「病気の予防」や「能力を高める」ほかに、「メンタルヘルスを強化する」ことも必要不可欠な要素だ。帝京平成大学現代ライフ学部教授・ライフバランスマネジメント研究所代表の渡部 卓さんが、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタル不調の切り抜け方を指南していく。(日経グッデイの連載コラム「働く人のココロを鍛える コンディショニング術」から転載)

Rさん(32歳・人材サービス・プロジェクトリーダー)
担当するプロジェクトでリーダーを務めているが、上司と面談をした際、チームメンバーから「リーダーはあまり褒めてくれない」という声が複数あったことを知らされた。確かに褒めるのは苦手だが、自分なりに褒めていたつもりだったので落ち込んでいる。どうしたら褒めるのがうまくなるだろう。

 私がかつて米国の企業に勤めていた頃、上司は部下をよく褒めていました。「Good job!」「Excellent!」といった大げさな言葉を聞くと、日本人としては少し気恥ずかしい思いがしましたが、そう褒められた部下は、ますますやる気を出したものです。

 近年は日本企業においても、「褒める」ことの重要性が認識されるようになり、管理職向けの企業研修などでも、職場のコミュニケーションの一環として「褒め方」を取り上げてほしいと依頼されることがあります。「部下を褒めよう」と心がけている上司も多いことでしょう。実際、日本生産性本部が2014年に発表した「職場のコミュニケーションに関する意識調査」の結果(*1)では、「褒めることが『育成につながる』と思う」と答えた課長職の人は98%を超えています。

上司は褒めたつもりでも、部下はそう感じていない?

部下を上手に褒めていますか?(c)studiostoks-123rf
部下を上手に褒めていますか?(c)studiostoks-123rf

 ところが、同調査では、「あなたは部下を褒めますか?」との問いに「(部下を)褒めている」と答えた課長は78%を上回ったのに対し、「上司はあなたを褒めますか」との問いに「(上司は自分を)褒める方だ」と回答した一般社員は50%に満たない結果となっています。上司の「褒めている」感覚と、部下の「褒められている」感覚には、大きな隔たりがあるようです。

 とはいえ、褒めるのが苦手な上司がいきなり部下を褒めようと思っても、どんなところを、どのように褒めたらいいのか、戸惑うことが多いのではないでしょうか。

 部下を褒めるのが苦手な上司は、部下だけでなく、自分自身を認めることも苦手な傾向があります。褒めることは相手のセルフエフィカシー(self-efficacy;自己効力感)を高めるといわれていますが、自分で自分を認められることも大切です。上司自身が自分で自分を認められるようになると、周囲に対してもそれができるようになってきます。自分を認める気持ち、相手を認める気持ちが、褒めることへとつながっていくのです。部下を褒めるにはまず、そうした感覚、感性を刺激し、磨くことが必要です。

*1 公益財団法人 日本生産性本部「第3回 職場のコミュニケーションに関する意識調査」

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