仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

休息のための週末朝寝坊が時差ボケを招く。(©Ioulia Bolchakova-123RF)
休息のための週末朝寝坊が時差ボケを招く。(©Ioulia Bolchakova-123RF)

 平日は朝も早いし、睡眠も不足ぎみ。せめて週末くらいはたっぷり寝よう―。そんなふうに考えている人は多いだろう。しかし、たっぷり寝たはずなのに体調はイマイチ。特に休み明けの月曜日がつらい…なんてことはないだろうか。

 実は、体を休めるつもりの“週末朝寝坊”には、意外な落とし穴があった。それが“時差ボケ”だ。日本睡眠学会理事も務める江戸川大学社会学部人間心理学科の福田一彦教授は次のように指摘する。

 「平日は規則正しい早寝早起きの生活でも、週末に夜更かしや朝寝坊をして就床時刻や起床時刻がずれると、それをきっかけに体内時計が乱れ、時差ボケのような症状を招いてしまいます。このような状態は『社会的時差ボケ(Social Jetlag)』と呼ばれ、近年、睡眠研究者らの間で注目されています。週末だけの乱れと軽く考えがちですが、体への影響は決して侮れません」

体内時計がずれると健康を損ねる

 そもそも時差ボケとは、体内時計と生活時間との間にズレが生じ、眠気や食欲不振、集中力低下などの体調不良を招くこと。時差の大きい国への旅行や出張には付きものだが、日常生活の中でも十分起こり得る。その原因が睡眠時間の乱れというわけだ。

 典型的なのが、夜勤などのシフトワーク(交代勤務)だ。これまでの研究で、シフトワーカーでは睡眠障害だけでなく、がんや肥満、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、狭心症などの虚血性心疾患、うつ病などのリスクが高まることが分かっている。これも体内時計のズレが大きな原因といわれている。

 「例えば、がんの場合、シフトワーク自体に発がん性があるとみなされています。WHO(世界保健機関)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)が発がんリスクのランク分けをしていますが、シフトワークは上から2番目のグループ2Aに位置付けられています。これは『人に対する発がん性が考えられる』というものです」(福田教授)。また、社会的時差ボケが進むほど、肥満の指標になるBMIが高くなり、この傾向は特に太った人ほど顕著だったという報告もある(Till Roenneberg, et al.Current Biology Vol.22, Issue10, 939-943, 2012)。

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