仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。
ビジネスパーソンの朝は早い。とはいえ、目覚まし時計が鳴っても、「あと5分、3分…」と布団の中で悪あがきをしている人も少なくないのではないか。特に、冬場は寒いうえに日の出も遅いから、なおのこと朝がつらい。やっとのことで布団から抜け出ても、なかなか覚醒モードに切り替わらないという人も多いだろう。
そんな人にぜひ活用してほしいのが、覚醒効果が非常に高い青色光(ブルーライト)を含む朝の太陽光だ。杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦教授は、次のようにアドバイスする。
LEDにはブルーライトが多く含まれている
「朝、目が覚めたら、まず部屋のカーテンを開けて、日光を浴びてください。窓も開けて風を通すと、気分がスッキリしますよ。ただ、2月は、少々日が長くなってきたとはいえ、早朝はまだ薄暗い。そこでお勧めしたいのが、部屋の照明をすぐにつけることです。最近はLED(発光ダイオード)を使っている家庭も増えてきたと思いますが、実はLEDには日光に多いブルーライトがたくさん含まれている。薄暗い冬の朝は、それを浴びることで、効果的に体を目覚めさせることができます。もちろん、一般的な蛍光灯にもLEDほどではありませんが、ブルーライトは含まれています」
ブルーライトは可視光線の中で最も波長が短く、エネルギーが強い。目に入ると、角膜や水晶体を通過して、そのまま網膜に達する。網膜の中には、このブルーライトを感知する細胞があり、それが体内時計の周期を整える脳の「視交叉上核」(しこうさじょうかく)に作用するという。
光を感じて体が覚醒するまでの仕組み
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目から網膜に入った光の信号(1)は、神経を介して体内時計の中枢である「視交叉上核」(しこうさじょうかく)に入る(2)。さらに神経を通して「松果体」へ到達する(3)と、メラトニンの分泌が抑制され、体が覚醒モードに切り替わる。朝の光は体内時計のズレを修正し、逆に夜に浴びる光は体内時計を狂わせ、眠りを妨げる。 (出典:『睡眠と脳の科学』(祥伝社新書)より改変)
そもそも、私たちの体には「サーカディアンリズム(概日リズム)」といって、地球の自転に連動した周期が備わっている。この仕組みをコントロールしているのが体内時計だ。体内時計の周期は、個人差はあるものの、1日24時間よりも多少長めにできている。そのズレを毎日修正しないと、少しずつ寝る時間と起きる時間が遅れてしまい、夜型生活になってしまいやすくなる。そんな困った事態を防いでくれているのが、ブルーライトを多く含む太陽光なのだ。
また、目から入った光は、睡眠にかかわるホルモンの分泌にも影響を与える。体内時計の中枢である視交叉上核に入った光の信号は、神経を通して「松果体」(しょうかたい)へ到達する。この松果体では、眠気を促すメラトニンというホルモンが作られているが、光の信号を感知すると、その分泌に抑制がかかる。つまり、眠気が減って、体が覚醒するわけだ(1ページの図参照)。
日の出の赤い光では覚醒しにくい
赤みのなくなった朝日は覚醒効果が高い。(©Melanie Taylor/123RF.com)
晴れた日の午前の太陽光は、2万~10万ルクスある。曇り空でも1万ルクス以上、雨の日でさえも5000ルクス以上ある。一般的な家庭のリビングで使われる照明の照度が150~500ルクス程度だというから、日中の太陽光がいかに強力かが分かるだろう。「この強烈な光を浴びると体内時計がリセットされてズレが修正される。また、引きずっていた眠気も取れて、しっかりと覚醒します」と古賀教授。
ただし、これは太陽が昇ってからの話。実は、日の出のころの赤い朝日にはこれだけの目覚まし効果は望めないのだそうだ。「朝日は赤色が強く、ブルーライトは少ないため、覚醒効果がそれほど高くない。むしろ、浴びて気持ちいいという心理的効果の方が大きい」と古賀教授。だからこそ、薄暗い冬の朝には、LED照明のブルーライトが一役買うわけだ。
家を出るころは、もう日が昇っているだろう。通勤時には、できるだけ太陽光を浴びるようにしたい。外を歩くときはもちろん、乗り物の窓越しにでも構わない。「目覚めてからトータルで20分ほど光を浴びると、職場に着いたころにはしっかり活動モードに切り替わり、スムーズに仕事に入っていけます」(古賀教授)。
反対に、避けたいのは、朝の電車内での居眠りだという。「せっかく目覚めつつある体がまた眠気モードに戻り、体内時計の周期がおかしくなってしまいます。朝から居眠りしなくても済むよう、夜にしっかり眠っておくことが基本です」と古賀教授はアドバイスする。
情報機器の液晶画面を見るのは寝る2時間前までに
ブルーライトには強い覚醒効果があり、朝の目覚めを助けてくれる。これは逆に言うと、夜、ブルーライトを浴びると、睡眠の質が下がるということでもある。ブルーライトを発するのはLED照明だけでなく、液晶テレビやパソコン、スマートフォン、ゲーム機器のディスプレイなど、身の周りにたくさんある。「寝る前に、布団の中でスマホを見ている人が多いようですが、これは最悪。部屋の電気を消しているから、浴びるのはディスプレイからのブルーライトだけになるからです。睡眠の質が悪くなり、もちろん目にもよくありません」(古賀教授)
古賀教授らは、寝る前にスマホを毎日1時間操作すると睡眠にどんな変化が現れるか、実験したことがある。それによると、寝つきまでの時間は変わらなかったものの、睡眠時間が減って、中途覚醒の回数が増え、翌日の活動性が低下したという。「スマホからのブルーライトをまともに受けることで、松果体でのメラトニン分泌が抑制され、その結果、睡眠の質が低下したと考えられます」(古賀教授)。
本来、メラトニンの分泌は、朝の光を浴びると、その約15時間後から再び高まり、体を徐々に睡眠モードへと誘う。朝7時に起きる人なら、22時くらいから分泌量が増えてくるわけだ。そうやって体がせっせと眠りに就く準備をしているところに、スマホなどのブルーライトを浴びてしまうと、体は「あれ、今は夜じゃなかったの!?」と混乱を来してしまう。「スマホやパソコン作業は、就寝2時間前までに終えるようにしたい。もちろん、寝床に持ち込んではいけません」と古賀教授は注意する。
ブルーライトは諸刃の剣。使うタイミングを間違えず、上手く使いこなせば睡眠の質の向上に役立てられる。
この記事は日経Gooday 2015年2月17日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。
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