萎縮による代表的な自覚症状の一つが記憶力の低下で、急速に進むと認知症にまで進展してしまうこともある。ただでさえ加齢とともに脳は萎縮していくわけだが、「アルコールが加わるとかなり進むと考えられています。同じ年代でお酒を『飲む人』と『飲まない人』の脳をMRI(核磁気共鳴画像法)の画像で比べると、前者の脳は後者に比べ10~20%ほど萎縮していることが多い。特に目立つのが、大脳で対になっていて、脳脊髄液で満たされている側脳室(そくのうしつ)が大きくなっていることです。これは脳全体が小さくなったことによって、側脳室が広がったことを示しています」と柿木教授は話す。ではアルコールは具体的に、脳のどの部分に強い影響を与えるのだろうか?

縮んだ脳は二度と元には戻らない!?

 「例えば、脳の萎縮が原因の一つとされる認知症、アルツハイマー病は、記憶を司る海馬や、理性をコントロールする前頭葉、言語認識や視聴覚を担う側頭葉前方の萎縮が特有なのに対し、アルコールは脳全体を萎縮させます。最近では飲酒量と脳の萎縮の程度は正の相関にあり、飲酒歴が長い人ほど進行が早いとの研究も発表されています。“休肝日”の有無など飲酒の頻度や、蒸留酒、醸造酒といった酒の種類とは関係がなく、『生涯のうちに飲むアルコールの総量』が強く影響していると考えられており、つまり、酒を飲めば飲むほど萎縮が早く進むということです。恐ろしいことに、脳内の神経細胞は、一度死滅すると、そのほかの臓器に備わる幹細胞のように再生することはなく、元の大きさに戻ることは二度とないとされています」(柿木教授)

脳の萎縮は避けられない加齢現象の1つ
写真は25歳、78歳の男性の脳を比較したもの。写真中央部にある脳側室が大きくなり、全体的に小さくなっていることがわかる。脳は30歳前後をピークとして、萎縮が始まるとされる。1日およそ約10万もの神経細胞が減少するとされ、60~65歳ごろにはMRIの画像を見ても、萎縮していることが明らかになってくる。(写真:公益財団 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「脳の形態の変化」)
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 さらに柿木教授によると、「日常的にアルコールを大量に飲んでいた高齢男性を調査した研究によれば、あまり飲まない男性に比べて認知症の危険性が4.6倍にもなり、うつ病のリスクも3.7倍になったとの報告もある」。生涯のアルコール総摂取量と萎縮の程度の関係について、学術的な結論はまだ出ていないとのことだが、飲み過ぎが脳疾患のリスクを何かしら高めてしまう可能性はやはり否定できない。