私は仕事柄、かなりの数の海外体験者・留学体験者に出会い、英語で話したことがありますが、まず中学・高校時代に海外に行ったケースでは圧倒的な利点があります。ほんの2年か3年程度でネイティブ並みに英語が上手くなるからです。

 このケースでもっとも感銘を受けたのは、ある有名大学の工学部の学生で、中学・高校時代に合わせて3年間海外にいたのですが、その流暢さには大変驚きました。このとき、もう一つ衝撃を受けたのは、日本で英語を学んだ学生との圧倒的な差です。彼らも素晴らしく優秀な学生たちで、おそらくリーディング力では負けてはいなかったと思いますし、プレゼンについても、彼らはそれこそ寝食を忘れて音読練習しますので、かなりのレベルでやってのけました。しかし、会話能力となるともう「どうにもならない差」があり、日常的な会話が困難であっただけでなく、プレゼンにおいても質疑応答で四苦八苦するという状況でした。

 今、英語教育は4技能重視の方向に動いており、それはそれで悪いことではないとは思いますが、この例を見ても分かる通り、国内で出来ることは所詮限られています。リアルな環境での学習というのは、人工的な環境での学習とは比較になりません。フィリピンのように幼稚園から「国語以外はすべて英語」ぐらいの決断をすれば話は別ですが、英語という限られた教科の中であれこれしたところで、効果は限定的です。それに、母語を捨てるということは日本にとってはマイナスの面がとても大きいと思います。移行期間に何年もかかるでしょうし、大きな混乱は避けられません。

 よって、私が考え得るベストアンサーは、中学~高校にかけて2年程度留学させる制度を手厚く用意するという案です。もちろん、子供たち全員とはいきませんので、どうしても選抜が必要ですが、全学習者に対してヨタヨタと4技能の育成に取り組むよりは、しっかりとした線引きをして、リーディング・リスニングを集中的に鍛えるグループと、海外留学を入れて4技能を鍛えるグループに分ける方が理に適っているように思えます。ちなみに、入試に中途半端に自由英作文などを入れると、文法を偏重する指導方法がこれまで以上に勢いを増す例が現れることも予想され、いったいどの方向へ改革を行っているのか分からなくなることも起こり得るのではと危惧します。

意思の疎通には会話と“人間力”

 さて、次に大学生・大人の留学ですが、これは成果を出すのに中学・高校生に比べて倍の時間がかかると考えた方が良いと思います。つまり、最低4年は海外に行かないと成果は期待できないと思います。私の知り合った人の中には1年で成果を出したといった人もいましたが、大半の人の感想は、はじめの半年は訳が分からなかった、1年目の終わりにようやく簡単な返答ができるようになった、4年目の終わりになんとか普通に話せるようになった……といったものです。中には初めの1年間は「blind」、つまり何が何だか訳が分からなかったと言っていた人もいました。

 私の受けた印象では、7~10年ぐらい住んだ人は流暢といって良いレベルで会話ができるように思います。

 さて、初めにも申し上げた通り、今このコラムを読んでいる方で海外留学を考えている人はそう多くはないと思います。ですから、○○年かかってようやくなんとか普通に話せるようになった、とかいったことを聞くと、やる気が失せるかも知れません。しかし、英語はあくまでもコミュニケーション、つまり意思疎通のツールです。流暢に話せないと訳に立たないというものではありません。

 私が驚いた例を1つあげると、全然英語のできないある学生が、豪州に2週間ほどホームステイをしたのですが、なんとそこで現地の友人を作ったばかりか、ホームステイ先の家族にも気に入られて今でも交流を続けています。昨年などは、ホストファミリーが日本にやってきて、京都を案内したそうです。

 彼が使用した武器は2つありました。1つはズバリ、スマホです。要所々々で必要な言葉を調べて、相手に伝えたのです。しかし、ここまでは、現代人ならだれでも思いつくこと。彼にはもう1つの強みがありました。それは、「人間力」です。私はこれをどう説明すれば良いのか分かりません。礼節を知りながら、媚びない。かといって、頑固に自分の考えを押し通そうともしない。適度にフレンドリーですが、無闇に相手の世界に踏み込まない。何より、彼は自分が英語を流暢に話せないことを、これぽっちも気にしておらず、常にコミュニケーションにフォーカスしている。

 仕事で英語を使うとなると、英語ができないでは済まないでしょうが、とくに会話については、国内での学習には「根本的な制約」があります。その限られた時間、限られた環境で英語を学ぶには、限られたリソースをどう有効に使うかということが大切です。その意味では、この学生の例は1つの参考になるのではないかと思います。

 英語に関する限り、私たちの能力は30%程度しか引き出されていません。これはとても残念なことです。このコラムでは、どうすれば残りの70%の能力を発揮できるかについて、日本語を活用するという手法を中心にさまざまな観点からお話ししていきます。

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