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 あなたは、どちらだと思いますか―――ここが運命の分かれ目です。

「発信」の発想の問題点

 もし、文法を「発信のため」であると考えると、その学習はとてつもなく複雑なことになります。なぜなら、「正しく発信できるように」あらゆるルールについて学び、演習を行う必要があるからです。これが、これまで教えられてきた文法だったのです。

 一例を挙げましょう。それは、状態動詞と動作動詞です。これは「進行形」を教えるときに使われる文法ですが、なぜこのような用語が必要になるかというと、動詞には進行形にできる場合とそうでない場合があるからです。たとえば、

 (1)She is eating sweets.

は文法的に問題がないですが、

 (2)She is loving sweets.

には問題があります。なぜなら、進行形は基本的には「一時的な事柄」について使用されるからです。(1)の「食べる」というのは一時的な行為です。ところが、(2)では一時的と考えるとおかしなことになります。「甘い物好き」であることが簡単に変わるとは思えないからです。ですから、「発信」、つまり「英文を作る」という発想で考えると、どうしても2類の動詞を区別し、さらに正確に使えるように訓練する必要が出てくるわけです。ネット上でも、この2つの動詞の「見分け方」について書かれたサイトが多数あります。

 ところが、このような説明を受け、文法演習までした後で、つぎのような例が出てきます。

 I am having a brother.  (×)

 I am having a good time.(◎)

 つまり、同じ「have」が「動作動詞」と「状態動詞」の両方だという奇妙な話になるわけです。

 「作る」という発想で考えると、必ずこのような問題が生まれます。だからこそ、ああだこうだという説明や議論が延々と続き、学習者も混乱してしまうわけです。

 この点については面白い話があります。それは数年前、あるファーストフード店を展開する会社が、その広告の中で「I’m loving it!」という言葉を使って、大騒ぎになったという事例です。その様子をみて、私は、逆に今のこの時代に、未だにこの文法分類にこだわっている人が大勢いることを知って驚いたものです。

受信文法の発想

 ところが、「受信」、つまり「英文を作る」ではなく「英文の意味を理解する」という観点から考えると、上のような分類は不要で、進行形というのは単に「一時的な事柄」を表している、そしてその結果として、目の前で生き生きと躍動しているような感覚が生まれると理解すれば良いだけのことで、「I’m loving it!」の場合ですと、「大好きだと言うことをリアルに生き生きと表現しているんだな」でおしまいです。とくに、あれこれと議論は起こりません(※)。

(※)進行形ついては、ある有名なアクティブラーニングの授業で、生徒が動作動詞と状態動詞について事細かに調べているのを見て愕然としたことがあります。そのような不毛なことをするぐらいなら、基本動詞、たとえばworkの基本の意味とその広がりについて調べる方がはるかに有益です。

 同じことは、自動詞・他動詞、能動態・受動態などの区別についても言え、わざわざ「これは自動詞だろうか」とか分類に悩んだり、奇妙な変換練習などをする必要はなく、ただあるがままに英文を受け取って意味を理解すれば良いだけのことです。

 「受信」という視点から見れば、すべての文法は「初めから正しく」与えられています。ですから、頭を悩まして分類をし、さらには使い分けまでを訓練をする必要はなく、「形と意味」に注目し、「こういう形のときには、こういう意味だ」とシンプルに英語をとらえれば良いのです。

 発信については、受信をしっかりと行って、あとは音読などのトレーニングをすればそれで身に付いていきます。その過程で、たとえば、ついdiscuss about the problemと書いてしまって、aboutは不要だと言われれば、「ああそうなんだ」と素直に受け取って、discuss the problemを20~30回その場で音読しておけば正しい用法が身に付きます。このようにして(頭ではなく)体を使って身に付けた英語こそが「使える英語」なのです。

教員側の事情

 しかし、公平を期してフォローを入れますと、じつは、ついつい上記のような文法解説をしてしまう事情が教員側にはあるのです。それは、入試問題に「自由英作文」が出るということです。とく昨今は「しっかり発信できないといけない」という方向性が強く打ち出されていますので、勢い、「正しい発信ができないといけない→動作動詞と状態動詞の正しい使い分けを身に付けさせないといけない」という流れになってしまうのです。

 また、当然ながら教科書のワークや問題集もそういう考え方で作られているため、どうしようもないわけです(※)。

(※)この点については、最近実践派の先生方から「使える教科書ワーク、問題集がない」と嘆く声を耳にすることが多くなりました。5文型を解説している時点でアウトというのが、そういう先生方の感覚で、この基準でいくと合格するのはほんのわずかです。