「コグニティブの時代」――これは、最近ネット上に現れた、あるグローバル企業のキャッチフレーズです。コグニティブ(cognitive)というのは「認知の」「認知に関わる」という意味で、このフレーズは脳の情報処理を応用したAI(人工知能)システムの宣伝に使われています。
おそらく、技術者はニューラル・コンピューティングという言葉を使いたかったのでしょうが、広報が頭を絞って、この言葉に決定したのでしょう。
かなり大胆なキャッチです。
そう言えば、AIも英語ですね。Artificial Intelligenceの略で正しい英語です。
他にも、先週の日経ビジネスオンラインには、「価格コンシャス」(price-conscious)という言葉が飛び出していました。これも正しい意味で使われていて、「価格を意識している」という意味です。「トレンド・コンシャス」(trend-conscious)なら「トレンドを意識している」ということになります。
このように、最近はどんどんと「正しい英語」がカタカナ化されてきています。そのスピードは恐ろしいほどで、このままでは日本語の良い点が失われてしまうのではないかと、心配になるぐらいです。
英語と日本語の相乗効果
しかし、英語の学習という点から考えると、これはとても好ましい流れです。このコラムで何度も指摘しているように、このような感じで日本語の中に英語を入れ込むようにすると、とくに負担感もなく、短期間で爆発的に語彙を増やすことができます。
方法は簡単で、「正しい英文」を用意して、それを英語交じりの日本語にしてしまうわけです。それだけで、単語や熟語を1週間に150語程度は無理なく、少し頑張れば200語は覚えることができます。真剣に取り組めば、250~300語/週も可能で、実際の話として、私の著書を使って1カ月1000語以上のペースで覚えた人に何度か会ったことがあります(書籍・アプリです。英文は付いていません)。
なぜこのような、にわかには信じられないペースで記憶ができるかというと、日本語を活用する方法では、「意味」を覚える必要がなく、「音」を頭に入れればそれで終わりだからです。
ここの発想転換が大切で、意味はわざわざ覚えなくても、そのほとんどが「すでに」あなたの頭の中にあります。たとえば、もしコグニティブ(cognitive)という言葉があなたにとって難しいとすると、それは、「認知」という日本語の意味自体がよく分かっていないからに他なりません。
この概念を、英語を通じて理解するとなると、普通の人にはまず無理です。しかし、日本語を通じてだと可能性は十分にあります。
ここが、日本語を活用した英語学習法のクールなところです。この方法だと英語の習得が何倍にも加速されるだけでなく、日本語そのものを鍛えることにも繋がります。つまり、母語を強化しつつ、英語も強化できるのです。
どんな英文も簡単に見える
そのようにしてまず語彙をしっかりと「確保」しておいて、今度は元の英文に戻り、これを聞き込み、音読して下さい。暗唱もありです。そのとき、ついでに和訳も利用してしまいましょう――するとどうなるでしょうか。想像がつきますね。最小の負荷で、どんどんと英語をつかんでいくことができます(※)。
(※)「つづり」については、読みと合わせて、少しずつ練習していけば良いのです。ちなみに、英語の「つづり」には母語話者もそれなりに苦労しています。音とつづりが一致していないケースが多いからです。
さて、当たり前ですが、語彙が増えれば英語は圧倒的にやさしく見えるようになります。私も、文脈を活用する方法を編み出して6か月で6000語近くを覚えたときには、かなりの手ごたえを感じました。英字新聞を見ても、知らない単語や熟語がグンと減ったからです。
気軽にやっても1週間に150語程度は覚えることができますので、1年で7000語、2年で1万4000語、3年で2万1000語となります。これだけ頭に入れると、どのような英語テストを受けても知らない語彙はほぼなくなります(※)。
(※)ざっくりと言って1万語あれば大学入試に楽勝。2万語あればGTEC//TOEIC/TOEFL//英検1級が「日本語のように」見えるようになります。受けるテストによってある程度は使用する日本語を選ぶ必要はありますが、これは過去問を利用すれば済むことです。
よく、「知らない語彙は飛ばして読めば良い」と言いますが、最低1万語は知っていないと学習効率が悪くなり、「しんどいだけ」ということになります。つまり、ほとんどの人にとっては逆効果なのです。
文法知識がなくても読める?
いずれにせよ、語彙を強力に増やすと、あとは「英文のマスターキー」さえ分かれば、新聞であろうと雑誌であろうとビジネスレターであろうと、ごく自然に「読めて」しまいます。
――「理屈としての文法」がよく分かっていなくても、です。
なぜそんなことができるかというと、あなたは決して、「未知の分野」の学術書を読むわけではなく、「すでに知っていること」を英語で確認するだけのことだからです。
そもそも文法というのは、そのほとんどが「意味と形」だけの問題です。たとえば、wentが「行った」という意味、mustが「~しなればならない/~に違いない」という意味だといったようなことを「知って」いれば、それだけで文の要旨は分かります。場合によっては、細部まで正確に分かります(※)。
(※)特にビジネス関係の英文は、シンプルな構造のものが多いので、語彙力でほぼ100%理解できます。
このようにしてできるだけダイレクトに英語を受け取れる状態にしておき、そこに音読やディクテーション、暗唱、さらには質疑応答やディスカッションなどを行うと、発信力も身に付いていきます。「正確さ」は、これらのトレーニングを丁寧に行っていく中で、徐々に身に付いていきます(※)。
(※)フォーカス・オン・フォーム(Focus on Form)という手法をうまく利用すると、このプロセスを加速することができます。これは、文字通り、「形」(フォーム)に焦点を当てた(フォーカスした)トレーニング手法で、世界の語学学校のテキストで活用されています。
つまり、初めからいきなり「すべて100%」を要求するのではなく、情報を分散しつつ、徐々に精度を上げていくわけです。
この点を外して、無理やり文法ルールを詰め込み、それを使って強引に英作文をしたり、文法問題を解こうとしたりすると、過剰な負荷がかかり、多くの人たちが脱落します(※)。
(※)「生き残った人」たちも、英語で話そうとすると、頭の中でルール通りに英文を作ろうとして四苦八苦することになります。抜群に頭の良い人たちは、それでも生き残っていきますが、これはもはや教育ではなく、単なる選別システム、もしくはサバイバルゲームで、しかも話せるようにはなりません。その「負のインパクト」(代償)はあまりにも大き過ぎます。
日本の英語教育の遅れを挽回する
残念なことですが、わが国の英語教育は他の東南アジアの国々に比べて、20年程度は遅れた状況にあります。今このコラムを読んでいる方の中にも、彼らの英語力、とくにスピーキング力が、日本人と比べてケタ外れに高いことに気づいている人がいるはずです。(※)
(※)留学経験のある人や仕事で英語を使っている人なら、これの意味するところがかなり深いと直観的に分かるはずです。
この遅れを取り戻すことは容易なことではありません。なぜなら、教える人材の育成、教える技術の検討から始めないといけないからです。また、入試にも抜本的な改革が必要でしょう。「テストの内容が、トレーニングの内容を決める」――これが学習の大原則だからです。
「英語力は特には必要ない」という意見もありますが、たとえそうであったとしても、少なくとも負のエネルギーを生み出すような教育は出来るだけ避けたいものです。
それに、全体として考えると、やはり今後ますます英語でのコミュニケーション能力が問われるのは間違いないと思われます。ですから、出来るだけそれが実現できるような、実践的な英語教育が望ましいと言えるでしょう。
そもそも、人間というのは、言葉を習う限り、「話したい」と思うものです。読むことも大切、聞くことも大切、書くことも大切。でも、話すことを通じてコミュニケーションが出来ないと、やはり失望感は拭えません。これは理屈の問題ではなく、ヒトの言語感性の問題です。
このコラムのテーマである「日本語を活用した英語学習法」は、今私たちが抱えている巨大なハンディキャップを一気に取り戻す、強力な挽回策の一つだと私は考えています(※)。
(※)あと一点ラッキーなのは、皮肉なことに、“後発国”であるがゆえにIT技術を最大限に活用できるという点です。もちろん、これも、「これは自動詞だから・・・」などとやっていたのでは、同じ結果になるだけで意味がありません。冒頭でも触れたとおり、時代はすでに「コグニティブの時代」なのですから。
熟語を覚えるコツ
最後に、前回予告した、熟語の覚え方のコツについてお話します。熟語は避けられがちですが、その大きな理由の一つが、「用法」がややこしいという点です。たとえば、「put off(スケジュールなどを遅らせる)は用法に気を付けましょう。put+代名詞+off / put off+名詞です」といったような解説が入ると、それだけでやる気が失せます。
しかし、用法を意識する必要は全くありません。なぜなら、実際の英文の中では、どの熟語も「正しい用法」で使われているからです。私たちは、ただそれを有り難く受け取り、真似して、使えば良いのです。
このように、「受信→真似して使う」という受信文法の発想で考えると、put offについても「延期する」と覚えておけば十分で、単語を覚えるのとなんら変わりないということになります。さらに、前回の「中学英語を自在に応用する!」で触れたように、パーツをくっつけて「put off 延期する」としてしまえば、もう単語そのものです。
単語そのものということは、150個/週ぐらいのペースで覚えることが可能だということです。これは効きます。なぜなら、特に会話においては、熟語が頻繁に使用されるからです。
もし、テストの文法・語法問題が不安だというのなら、turn it off/ turn them offのように、「どちらか一方の」具体的な例を2つだけ用意して英語→日本語の順序で繰り返し音読しておけば、あとは脳がうまく正解に導いてくれます(※)。
(※)これが、私が予備校という、いわば“受験英語の牙城”で、四択問題を一問も解かさずに正答できるようにしたテクニックの一つです。
このように、脳の働き方をよく理解し、情報を分散させて学習するようにすると、最小の負担で驚くような成果を生み出すことができます。
英語は、あなたが思っている以上に近いところにあります――アプローチの仕方さえ間違えなければ。
英語に関する限り、私たちの能力は30%程度しか引き出されていません。これはとても残念なことです。このコラムでは、どうすれば残りの70%の能力を発揮できるかについて、日本語を活用するという手法を中心にさまざまな観点からお話ししていきます。
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