そこで私は、TOEICをいったん脇にどけ、技術的な英語に焦点を当てた方が良いとアドバイスしました。それも、もし「会話力」が必要なら、そこに特化したトレーニングを行うべきだと。その方は、「実社会で通用する英語=TOEIC」と思っておられたので、説得するのは大変でしたが、上述の実績もあり、取りあえず聞き入れていただくことができました。そこで、私は、この辺りの事情に詳しい英会話学校をご紹介したのです。

焦点を絞った訓練

 さて、その英会話学校が何をしたかというと、状況を確認したあと、How are you?――Not bad.などのごく基礎的な会話表現を、個別学習で徹底的に反復練習し、そこにプラスする形で技術的な表現・語彙を増やしていきました。国内で、かつ短期間でとなると、悠長な自由会話などやっていられません。そこで、焦点を絞って、特殊部隊ばりのトレーニングを行ったのです。

 その結果、どうなったかというと、少々時間がかかりましたが、1年ぐらいで成果が出始め、今ではすべての技術者が「英語で電話を取れる」状態になっているそうです。え? TOEICのスコア? 相変わらず300~400点の間を行き来しています。

 これと類似した相談を別の会社から受けたことがあります。その会社も技術系なのですが、海外とのやり取りが膨大で、その翻訳料が馬鹿にならない。また、翻訳にかけても、専門性が高いため、信頼性に不安が残る、という話でした。

 当たり前のことですが、技術者自体が直接英語でやり取りできると、圧倒的に速く、安価で正確になりますし、情報漏えいの心配も少なくなります。

 事情が分かりましたので、つぎにどのような対策を取っているのか尋ねてみたところ、これがまた「TOEIC」でした。そこで資料を見せてもらったのですが、なんと見事に300~400点に偏っていました。これには少々ショックを受けました。高度な技術力を持つ人たちのスコアだったからです。

 私は、これも、上述のケースと同様で純粋にESP(※)の問題だと思いましたので、その方向で説得を行いました。しかし、担当の方もなかなか信念が固く、結局3時間余りもかかりましたが、何とか納得いただき、一応話はまとまりました。その後、その会社がどのような研修を行っているかについては存じ上げていませんが、もしTOEICの研修を行っているとすると、技術者の方々には気の毒としか言いようがありません。

(※)ESP(English for Specific Purposes)というのは、「専門分野の英語」と言う意味です。

技術者とTOEIC

 技術者にTOEICを課している会社は結構多いかも知れません。しかし、思うような成果はなかなか出ていないはずです。なぜかというと、彼らにとっては、自分の専門と何の関係もないテストには「心」が動かないからです。「加工精度が0.001ミリ改善された」と聞くと、日本語だろうが英語だろうが目の色を変えて読んだり聞いたり、さらには英語でコミュニケーションを取ろうとする人たちも、「求人広告」「水道工事のお知らせ」「(自分の専門と関係のない)新製品の紹介」などとなると、急に気持ちが萎えてしまうものです。