「英語で仕事をする=まずはTOEICで実力を評価」―――これが世間の常識です。ところが実際の話として、技術者のほとんどがTOEICのスコアが300~400点程度とあまり高くないにもかかわらず、海外と英語でコミュニケーションを取り、仕事をこなしている会社があります。

 私が初めてこの会社のことを知ったのは、ご縁があって社員の方のご子息に英語の手ほどきをしたときでした。その生徒は理系志望でしたが、数学や化学などはできるのに英語が壊滅的にできず、そのために浪人していました。英語ができない理由は、よくあるパターンで、文法が理解できなかったのです。

不思議なギャップはなぜ起こる?

 微積やベクトルの問題をスラスラと解き、ベンゼンの誘導体をズラリと並べて書くほど優秀なのに、文法が理解できない。このギャップは不思議です。でも、それにはきちんとした理由があります。文法というのは、論理整然としているようでじつはそうではないからです。たとえば、ing形。もし、お手元に文法書があればご覧になって下さい。同じ形なのに、文法の分類名は5~7種類もあり、しかも「重複」があります。

 話をさらにややこしくするのが5文型です。じつは、子供たちは中学校3年生になった段階ですでに基盤となる英文はすべて読解できる状態になっています。あとは、それを応用的に展開すれば話は終わるわけですが、どういうわけかそこに5文型が割り込んできて、「これはCだから」などという解説が始まるわけです。それも、「I’m happy. はSVC、でもHe runs fast.はSVなので注意しよう」などとなるので、学習者は戸惑うしかなくなるわけです。とくに、論理的に物事を考える人ほど、その傾向は強くなります。

 話を戻すと、私はその生徒に対して、①語彙を増強する、②(このコラムで何度か紹介している)「受信文法」の発想を教えリーディング力を鍛える――という2本柱を基礎においた上でリスニング力などへとつなげていき、志望校に通しました。ところが、話はそこで終わらなかったのです。

技術者の英語力とTOEIC

 子供の快挙に喜んだ社員の方がどこかでその話をしたようで、なんと、彼の会社の役員の方から連絡が入ったのです。その方が言うには、会社では機械類の製造・輸出をしているが、技術者の英語力が低く、コミュニケーションがうまく取れない、なんとかならないかということでした。

 実は、その方はその方なりに対策を取っていて、会社で費用を負担してTOEICの講座を社員に受けさせていたのです。ところが内心600点ぐらいはすぐに取ってくれるだろうと期待していたにもかかわらず、300~400点の間を行き来するばかりで一向に伸びなかったのです。

 私が直観的に思ったのは、「対策自体が誤っている」でした。機械類を扱っているということは、摩擦係数や加工精度、金属疲労、素材の耐熱特性などの用語が行き交っているはずなのですが、TOEICにそのような語彙は出てきません。また、日常会話についても、初心者が本当に必要な、「短くてすぐに使える会話表現」もTOEICには出てきません。